2014 Fiscal Year Annual Research Report
大戦間期のアンリ・ルフェーヴル - 日常生活の主題とファシズム批判の思想史的意義
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14J08061
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平田 周 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | アンリ・ルフェーヴル / 日常性 / 空間 / ファシズム / 社会哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、2014年10月25日から26日にかけて明治大学駿河台キャンパスで開催された第39回社会思想史学会大会において、大戦間期のアンリ・ルフェーヴル(1901年生まれ、1991年没)の思想についての発表を行った。 その主旨は、現代的地平から、とりわけ近年フランスにおいて「社会哲学」を旺盛に展開するフランク・フィッシュバックの議論を参照軸としながら、ルフェーヴルが1924年から1933年にかけて、ポール・ニザンやジョルジュ・ポリツェルらと共に加わっていた「哲学」グループの理論的活動の意義を明らかにすることにあった。 フィッシュバックによれば、ドイツにおいては社会学が哲学の延長上に位置づけられながら、社会哲学が発展したのに対し、フランスにおいては、哲学の自律性を唯心論に基礎づける伝統が強固なため、サン=シモンやオーギュスト・コントの哲学や社会的なものの探求が哲学教育において制度化されることはなかった。フィッシュバックが社会哲学によって目指したものとは、哲学が自らと現在進展している社会科学と差異化を図るために、自らのうちに「隠遁」することではなく、むしろ人文・社会科学に開かれた形で、哲学を実践することである。 こうした志向は、社会的なものに敵対する当時の唯心論的哲学の伝統に対して、哲学体系内部に安住することなく、社会との絶えざる接触のなかで哲学そのもの改変していこうと試みる「哲学」グループの言説にも見いだせる。上記の発表では、この点においてこれまで思想史的な位置づけがなされていなかったルフェーヴルの大戦間期の理論的活動ならびに「哲学」グループを評価する視座があることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度の研究において、申請者は上記の研究とともに、国際的なレベルに自らの研究を高めるため、また自らの専門地域であるフランスの現在を日本に伝えるため、フランス語の論文とシャルリー・エブド襲撃事件の雑誌特集のための論文を執筆した。一つめのフランス語論文は、「身体」をめぐる学際的な論文集に寄稿したものであり、これまで申請者が行ったポール・ヴィリリオの「速度」概念を、メルロ=ポンティの「経験の地平」、すなわち身体の移動可能性と視覚との関係に基づいて検討した。二つめの論文は、襲撃事件と同日に出版され、イスラーム化するヨーロッパ社会を描くことで物議をかもした小説家ミッシェル・ウェルベックの『服従』についての論考であり、とくに小説世界を支えている日常生活の描写に着目した。こうした研究は申請者の研究のレベルを国際標準に高め、またそれを日本社会へと還元するために絶対に必要なものであるが、本研究の遂行を遅らせてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題と関わるこれまでのルフェーヴル研究について、国内外で発表を要請されることが多くなっている。申請者自身の研究者としての質を高めるために、そうした貴重な機会を利用しつつも、本研究の課題をより迅速に進めるために、システマティックな仕方で研究を進めることが求められる。例えば、本研究の課題であるアンドレ・ブルトン、あるいはシュルレアリズムとルフェーヴルにおける日常性の概念を検討するとき、それぞれの著者の著作群を解読しながら、そこにおける概念規定とその変遷を的確に把握しつつ、それがいかなる思想史的・文化史的背景をもっているのかを見定める必要がある。
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Research Products
(2 results)