2015 Fiscal Year Annual Research Report
大戦間期のアンリ・ルフェーヴル - 日常生活の主題とファシズム批判の思想史的意義
Project/Area Number |
14J08061
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平田 周 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 日常生活 / ファシズム / 空間論 / シュルレアリスム / アンリ・ルフェーヴル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27(2015)年度は、二つの発表を行った。ひとつは、台湾の新竹市にある国立交通大学が開催した〈都市への権利〉をめぐるワークショップの枠組みで招かれて行ったものである。それは、アンリ・ルフェーヴルによって提出されたこの概念における権利の意味について、クロード・ルフォールの論文「人権と政治」を参照しながら、定式化することを意図したものである。もうひとつは、12月5日から6日にかけて青山学院大学で行われた国際シンポジウム『〈日常〉とは何か-西欧の場合、日本の場合』で行った「永遠性から日常性へ?」と題した発表である。以下では、より研究課題に関わりのあるこの二つめの発表の内容を詳説することで、当該年度の研究実績の概要としたい。 この発表では、日常生活の主題に関するブルトンとルフェーヴルの思想の比較検討を行い、大戦間期におけるこの主題の形成を描き出すことを目指した。 まず、二人におけるこの主題の着目が当時の思想状況において有していた画期的独自性を示すために、ジュリアン・バンダの『永遠性の終焉』を取り上げた。知識人論として著名な『知識人の裏切り』に対する批判の弁論書として出版されたこの本のなかで、バンダが「聖職者」と呼ぶ知識人が政治的事柄に介入することを批判する際に用いられる「教権」と「俗権」のレトリカルな対比を読解することで、バンダの議論に世俗的な事柄、つまり日常生活を認識対象とすることへの軽蔑が含まれていることを示した。次に、このようなバンダの思想に対して、日常生活を考察の対象とすることで認識の地平を広げ、新たに主体と客体が切り結ぶ関係を分析したブルトンとルフェーヴルそれぞれの議論の展開を概観した後、最後にブルトンにおける驚異、魔術、神話、触媒、超自然といった言葉の使用を日常生活の再魔術化としてみなすルフェーヴルの批判をとりあげ、二人の思想の相違点を検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究において、11月13日に起きたパリ襲撃事件のため当初予定していたフランスでの資料収集を見送ったが、研究計画のとおりに、上述の大戦間期におけるブルトンとルフェーヴルの日常生活の主題の形成に関して国際的なシンポジウムで報告しまとめることができたので、進捗状況に問題はないと考える。加えて、この会の他の参加者の発表や討論によって、同主題が、哲学や文学のみならず、写真や映画といった研究分野においても国際的に強い関心をひきつけていることを知り、自らが専門とする研究領域や時代を超えて、より全体的・複合的な学際領域のなかで本課題をみつめる機会を得られた。こうした思いがけない出会いによって、本研究の課題が新たに動機づけられる経験をしたことも、これからの研究の進展にとって重要な示唆となると考えられるがゆえに、研究はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の課題は、ルフェーヴルがノルベール・ギュテルマンと1933年に『前哨』において発表した諸論稿と1936年の共著『神秘化された意識』を中心としたテクストからファシズム批判を解読しながら、その独自性が当時のファシズム批判の言説においてどのような位置を占めるのか、これまで省みられることのなかった二人の議論が、当時の知識人の言説の総体的な見取り図を変えるような可能性があるのか、あるとすればそれは何なのかを厳密に見定め、批判検討することにある。この課題を遂行するにあたって、ルフェーヴルら個別のテクストの内在的読解とファシズム批判の知識社会学的な作業との往還を着実に遂行することが要請される。以上の方策によって、目下、夏にフランスで開催予定のシンポジウムでの発表へ向けて、この内容をまとめる作業を進めている。
|
Research Products
(2 results)