2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J08196
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塚越 拓哉 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | MEMS / センサー / 細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
生きた細胞の力や力学的性質,活動のダイナミクスを観察・計測するための方法論を確立するとともに,実験を行う上で必要なセンサーや電気回路などのツールを開発した.こうしたツールを用いて,単一細胞の活動を力学的に計測した.作製したセンサーはnNオーダーの分解能を示し,数十nNから数μNと考えられている細胞の力を計測するのに十分な性能である. センサー表面の材料やコーティング,接着剤,配線方法などを比較検討し,細胞の生育に適した条件を見出した.この結果,センサーのセンシング領域に細胞(ウシ平滑筋細胞)を接着・移動させることができるようになった. 反射型微分干渉という顕微手法を用いることで,センサー上を移動する細胞の姿をリアルタイムで観察することもできるようになった.これまで顕微観察が中心であった細胞実験に,力の計測を組み合わせることで,細胞の動的性質をより詳細に調べることができるようになった. センサーから得られる信号には,細胞運動に由来する電圧変化だけでなく,電源ノイズや温度変化,培地の対流など,様々な現象が影響する.センサーに温度補償機構を設けたり,信号増幅のためにロックインアンプを用いたりすることにより,安定した信号が得られるようになった. 本研究で細胞計測用に開発した力センサーはピエゾ抵抗型カンチレバーであるが,カンチレバー自身の共振を利用しているわけではないので,高速応答性に理論上の制約はない.そこで,データ収集のためのプログラムを作成し,10mHzから100kHz程度までの広帯域を含む時間応答が計測できるようにした.次年度には,広帯域の応答を計測し,細胞の力学的性質をより詳細に調べてゆく.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に記載された内容については,ほぼ達成したと考えている. 研究実績として記載していないものに,細胞外マトリックスと蛍光染色がある.細胞外マトリックスのコーティングについては,センサー上に細胞が接着するために必要であると考えていた.しかし,実際に細胞を培養してみたところ,細胞外マトリックスの有無よりも,センサーチップ周辺の電気配線材料が接着性に強く影響していることがわかった.結果として,センサーチップと回路基板を金の配線でつなぐことにより,細胞外マトリックス等をコーティングせずとも,細胞がセンサーによく接着するようになった. 蛍光染色については,微分干渉による観察が予想以上に優れていることから,その必要性が低下した.ただし,今後,より小さなセンサーを用いて細胞内の力分布が計測できるようになれば,細胞骨格の形状変化との対応を見るために蛍光染色が有用となることも予想される.そうした状況を見越して,すでに染色方法の検討を進めるとともに,遺伝子操作によって染色なしに蛍光観察が可能な細胞の培養も始めている. 一方,計画に含まれていなかった内容として,広帯域の時間応答を計測できるセットアップの構築が挙げられる.これを用いて,次年度には細胞のダイナミクスや力学的性質をより詳細に解析できることが期待される.
|
Strategy for Future Research Activity |
【研究実績の概要】および【現在までの達成度】に記載したとおり,細胞の力や高周波応答を計測するための実験環境が整い,実際に生きた細胞の運動を調べることができるようになった.今後は,一般的な細胞の力学的性質や細胞種による違いを調べてゆく.具体的には,細胞が運動する際の力や振動を高い時間分解能で計測し,信号に含まれる特徴的なスペクトル応答を抽出する. また,可能であれば,そうした応答の生物学的根拠についても議論したい.これは必ずしも本研究課題における目的とは考えていないが,こうした細胞に対する測定結果を生物学的な知見につなげることで,より価値の高い研究成果にすることができる.そのために,自らも関連する研究動向を調査し,細胞の力学モデルを考案するだけでなく,細胞生物学に明るい研究者とも議論し,必要があれば協力してゆきたい.
|
Research Products
(1 results)