2015 Fiscal Year Annual Research Report
脂肪蓄積の分子基盤における脂肪細胞アポトーシス制御機構の解明
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14J08212
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
黒田 雅士 徳島大学, 大学院栄養生命科学教育部, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 脂肪細胞 / マクロファージ / アポトーシス / 貪食 / 肥満 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAマイクロアレイ解析などより肥満により発現が誘導される遺伝子としてMFG-E8(Milk Fat Globulue EGF8)を同定し、その機能解析を行ってきた。既報より分泌タンパク質MFG-E8はアポトーシス細胞に特異的に表出するホスファチジルセリンとマクロファージなどの貪食細胞のインテグリンとに結合することにより、貪食を促進させるとのことが明らかとなっている。一方で肥満状態では過栄養などのストレスにより死脂肪細胞数が増加しており、マクロファージとの相互作用を介して病態・脂肪組織慢性炎症の形成に重要な役割を担っていると考えられる。以上より、申請者は脂肪組織局所炎症及び代謝異常とMFG-E8との関連を明らかにすることを目的に検討を行っている。 申請者はこれまでMFG-E8ノックアウトマウスを用いた検討より、肥満誘導時の代謝異常がノックアウトマウスでは改善されることが明らかとしている。同時に脂肪組織で肥満による炎症性サイトカインの発現増加がノックアウトマウスで有意に抑制されていたことからMFG-E8と脂肪局所慢性炎症の関連について解析を行ってきた。 精巣上体白色脂肪組織においてマクロファージ表面抗原F4/80により免疫染色を行い、浸潤マクロファージにより形成されるCrown Like Structure(CLS)構造を解析した。その結果、肥満によって増加するCLS数は野生型とノックアウトマウスで変化しなかった。一方で浸潤マクロファージについてM1/M2マーカー抗原を染色し、フローサイトメトリーによりポピュレーション解析を実施したところノックアウトマウスにおいて炎症性のM1マクロファージ比率が野生型に比べて有意に低いことが明らかになった。 以上より、MFG-E8は肥満状態において脂肪組織浸潤マクロファージの活性化の獲得を制御し、慢性炎症の形成に関与している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度はMFG-E8ノックアウトマウスの解析を中心に行い、MFG-E8の生理的役割について様々な知見を得ることができた。特にMFG-E8と脂肪組織炎症との関係をつなぐ解析結果を得られたことは非常に重要である。 ノックアウトマウスでは高脂肪食負荷時、体重増加は野生型に変化ないものの糖負荷試験において血清インスリン濃度の低値を示した。遺伝子発現解析より肥満時の脂肪組織炎症状態がノックアウトマウスでは抑制されており、糖代謝を改善しているものと考えられた。 脂肪組織中のマクロファージとして炎症性に富むM1マクロファージと抗炎症的なM2マクロファージの存在が知られる。肥満状態脂肪組織ではM1マクロファージの増加が観察され、局所炎症状態の形成・進展に重要な役割を担うと考えられる。そこで脂肪組織中マクロファージのポピュレーション解析を実施した。その結果、ノックアウトマウスでは肥満によるM1マクロファージの増加が有意に抑制されていることを見出した。すなわち、ノックアウトマウスにおける脂肪組織の炎症状態の抑制はマクロファージの質的変化に起因しているものと考えられる。 MFG-E8はアポトーシス細胞-貪食細胞間のリンカータンパク質として、貪食を促進させる機能が明らかとなっている。申請者らのこれまでの実験結果はMFG-E8が脂肪組織における炎症とマクロファージによる貪食とをつなぐ可能性を示す重要な発見であり、研究を進めるうえで意味も大きい。一方、MFG-E8ノックアウトマウス脂肪組織で肥満時の炎症が抑制されているメカニズムは明らかでない。この点は今後の検討課題であり、現在培養脂肪細胞を用いた検討方法を確立中である。 以上より現在までの進捗状況として上記のように報告する。
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Strategy for Future Research Activity |
MFG-E8ノックアウトマウスにおいて肥満による脂肪組織炎症が軽度であった点について詳細なメカニズムの解明を試みる。 ノックアウトマウスにおいて脂肪組織M1マクロファージの減少が観察された。申請者らは「MFG-E8は肥満により増加する死脂肪細胞とそれを貪食するマクロファージの間において機能し、マクロファージによる脂肪細胞の貪食を促進させる」とともに「マクロファージはMFG-E8を介した脂肪細胞の貪食により炎症性を獲得する」という仮説を立てた。仮説を検討するため、申請者らは脂肪細胞-マクロファージの共培養系の確立・マクロファージによる脂肪細胞貪食の評価方法の確立に取り組む。脂肪細胞としてはCRISPR/Cas9システムにより既にMFG-E8欠損3T3-L1脂肪細胞株を樹立している。貪食の評価方法に関して有効な手法を検討中であるがpH指示薬を用いて脂肪細胞を染色しフリーサイトメトリーを用いて貪食脂肪細胞の検出・定量を試みる。さらに生体におけるMFG-E8の死脂肪細胞貪食の関与を明らかにするために肥満マウス(野生型・ノックアウト)に対してStreptozotocin投与を行い、脂肪細胞死を誘導後、免疫染色にて死脂肪細胞の定量を行う。 さらにマクロファージによる組織での局所的な炎症の惹起は種々の病態形成に関与している。メタボリックシンドローム・肥満の肝臓でのフェノタイプとして知られるNASH(Non-alcoholic steatohepatitis:非アルコール性脂肪性肝炎)において、一部MFG-E8と病態との関連を認めている。ノックアウトマウスに対してNASHを誘導、その後のフェノタイプについて肝臓の組織学的な変化、肝がんへの進行程度などの評価を行っていきたい。
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Research Products
(2 results)