2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J08291
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢部 優 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | スロー地震 / 不均質断層 / 震源モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,研究計画のテーマ(B)微動の震源パラメーターの推定に関する研究において,昨年度より行ってきた微動の潮汐応答性推定について,論文を出版した.さらに,この研究から得た知見に基づいて,研究計画の発展的テーマである多様な滑り現象のモデル化を開始した. Ando et al. (2010, 2012)とNakata et al. (2011)の一連の研究で,不均質な摩擦パラメーター分布を持つ断層を用いたスロー地震のモデル化が行われた.さらに,Nakata et al. (2011)は普通の地震とスロー地震の両方をこのモデルで再現できることを示した.しかし,彼らのモデルの摩擦則は潮汐応答性の研究から示唆された指数型の摩擦則ではなかった.そこで,指数型の速度状態依存摩擦則を用いて,不均質な摩擦パラメーター分布を持つ断層がどのような滑り挙動を示すかを,数値計算により調べた.最もシンプルな無限線断層において,パラメータースタディを行った.不均質断層上において,地震性滑りは速度弱化の摩擦パラメーターを持つ領域で始まる.この地震性滑りが終了するまでに,速度強化の摩擦パラメーターを持つ領域が摩擦則の特徴的距離(断層面の弱化が開始する距離)だけ滑ることができるような不均質分布の場合には, 速度強化部も地震性滑りを起こして,断層全体が高速で滑ることが確認された.一方,そうではない場合には,速度強化部は地震性滑りイベントからある程度の遅れをもって加速するが,その最大速度は,地震性滑りほど高速にはならず,アフタースリップ的になる.Ando et al. (2010, 2012)とNakata et al. (2011)が示したように,小パッチの地震性破壊が塑性的なゆっくりした変形で隔てられながら連続的に発生することで,スロー地震的な挙動を示すと考えられる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は深部低周波微動活動の不均質性の定量化とグリーン関数推定という2つのテーマを設定していた.このうち,前者については,当初予定していた微動振幅の空間分布推定に加えて,潮汐応答性の空間不均質性についても推定を行い,論文を出版するに至り,順調に推移している.一方で後者のテーマについては,研究が進んでいない.しかしそのかわりに,前者のテーマから得られた深部低周波微動の定性的モデルについて,数値計算による定量的モデル化を開始し,これまでの研究からこのモデルを用いてスケール依存性まで含めた普通の地震とスロー地震の両方をモデル化できる可能性が示唆されている.多様な震源メカニズムを統一的に説明するモデルの構築は,DC1研究計画の発展的テーマに設定していた.これまでの研究で2次元(線断層)の場合については,既に投稿論文を準備する段階にまで至っており,モデルの3次元(面断層化)も進行している.こちらについて今後も大きな発展が見込める.よって,本研究計画は,概ね順調に進展していると考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の発展的テーマである多様な滑り挙動の統一的モデル化について,今まで2次元(線断層)で行っていたモデル化を3次元(面断層)化している.平成28年度は,本モデルの3次元における挙動を理解し,普通の地震とスロー地震の統一的なモデルによる再現を目指す.不均質の分布統計の違いによって滑り挙動がどのように異なるかを理解する.幅広いスケールの階層性をもった数値計算を実行することは計算コストの面から難しいため,スロー地震的挙動と普通の地震的挙動のそれぞれの相において,スケーリング則を導出し,階層的な破壊が発生した時に全体としてどのような滑り挙動が発生するかを理解することを目標とする. 統一的なモデルによる多様性の再現に成功した暁には,スロー地震と普通の地震の相互作用や,潮汐応力などの応力擾乱に対する応答性,普通の地震のスケーリング問題など,取り組むテーマは多くある.また,それと同時に実際の観測データからプレート境界面上の不均質性を明らかにしたり,摩擦パラメーターを推定するデータ解析も行い,モデルの結果と実際の地震活動の比較を行う.
|
Research Products
(8 results)