2014 Fiscal Year Annual Research Report
インド仏教教団の信仰活動の実態:『ウッタラグランタ』全訳と祝祭の研究
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14J08294
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
岸野 亮示 佛教大学, 仏教学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | インド仏教 / 律 / vinaya / 根本説一切有部 / ウッタラグランタ / 祝祭 / 菩薩像 / ストゥーパ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、当初の計画通り、(1)チベット語訳の「ムクタカ」のテキスト校訂と翻訳を進め、(2)義浄訳『目得迦』の併読、および、中世インドの学僧が著した注釈書等(グナプラバ著『ヴィナヤ・スートラ注』;カリヤーナミトラ著『ヴィナヤ・サングラハ』)に見られる「ムクタカ」の引用の調査・回収を進めた。現段階で、チベット語訳のテキスト校訂と翻訳、および、義浄訳の併読に関しては凡そほぼ完了している。また、グナプラバの『ヴィナヤ・スートラ注』における「ムクタカ」の引用調査に関しては、現段階で、少なくとも32箇所の引用を同定している。(3)祝祭に関する因縁譚・規定についても、「ニダーナ」と「ムクタカ」に散見されるものに限り、全ての関連情報を収集し終えている。この収集を通じて得られた新たな知見としては、一般に「欄楯(らんじゅん)」や「塔門」と呼ばれるストゥーパ(仏塔)の周辺造物には、ブッダの生涯をモチーフにした意匠が見られることがあるが(例えば、サーンチーの第1ストゥーパの塔門[1世紀])、この意匠のことが、「ムクタカ」に見られるストゥーパにちなんだ祝祭の諸規定の中で明確に言及されている点である。管見の限り、欄楯に施された意匠が律によって規定されている事実を指摘した研究は皆無であると思われる。更に言えば「ムクタカ」には、ブッダの生涯における重要な四つの出来事にちなんだ、所謂「四大聖地」において大きなストゥーパが建立されていたことを前提とした記述が見られるが、これも仏教文献と、実際に出土している Visual materials との一致を示す興味深い例の一つであり、更なる研究の端緒となりうる重要な発見であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「ムクタカ」の校訂・翻訳については、当初の計画通り、ほぼ完了しているが、それ以外の点については、やや遅れをとっている。大きな理由としては二つを挙げることができる。一つには、本計画とは別に、数年前より進めているチベット語訳「根本説一切有部律」を中心資料とした、比丘尼(正式な女性出家修行者)を輩出するための所謂「受戒」儀礼に関する研究をとりまとめて、英文の論文として雑誌に寄稿したため、そちらの研究と論文執筆に時間と労力を大きく割かれてしまったからである。また、いま一つには、「ムクタカ」中には、他ジャンルの仏教文献(経典や説話)との並行話と思われる物語が、少なくとも四つ見られるのであるが、それらが、実際にどの文献に見られるのかを探索するのに、予想以上の時間をとられてしまったためである。現段階においては、そのうち二つを突き止めることができた(サンスクリットで現存する『アヴァダーナ・カルパラター』との並行話、更には、パーリ語「マッジマ・ニカーヤ」と漢訳「中阿含」の中に現存する、所謂『分別布施経』との並行テキスト)が、未だ二つに関しては不明である。
比丘尼の「受戒」儀礼に関する研究も「ウッタラグランタ」が内包する「ムクタカ」などの文献をも参照するものであり、また「受戒」という最重要の仏教儀礼をテーマとするものであるので、本計画とは全くの無関係ではない。また、「根本説一切有部律」中に見られる経典・説話との並行話の同定に関しても、同文献と他ジャンル文献との前後関係を考察する上で、極めて重要な論点であるため、決して疎かにはできない。しかしながら、これらの研究・探索に予想以上の時間がかかったため、当初の予定であった「ガンダーラとマトゥラーより出土している菩薩像に関する先行研究の収集・分析」については充分に遂行することができなかった。達成度を「やや遅れている」としたのは、以上のことが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
先ずは「ムクタカ」の全貌解明を一刻も早く終えることが最優先である。既にそのテキスト校訂・翻訳は大凡終えているので、「根本説一切有部律」全体および「根本説一切有部律」系の他文献(特に『律攝』『百一羯磨』)に見られる並行テキストをできる限り多く同定し、また、他の漢訳諸律(『十誦律』『四分律』『五分律』『摩訶僧祇律』)の中に見られる「ムクタカ」との対応箇所の詳細を明らかにする。そして、既に博士論文を通じて遂行した「ニダーナ」の全体像提示に引き続き、「ムクタカ」の全体像の提示を速やかに行うすることで「ウッタラグランタ」の全貌解明を大きく進めたい。
「ニダーナ」と「ムクタカ」に集中的に見られる、仏教の祝祭に関する因縁譚・規定についての収集・整理は既に終えているので、「根本説一切有部律」の他章(特に「雑事」)における関連情報の有無、更には他部派の律における類似の因縁譚や規定の有無を再確認し、そこまでの成果を発表する。即ち、「根本説一切有部律」に説かれる祝祭の「由来」と具体的な「内容」、そこでの「菩薩像(=仏になる前の釈迦像)」およびストゥーパの役割、更には「出家者と在家者の役割の違い」という四点を提示する。
「ムクタカ」の全貌解明を終えたら、引き続き「ウッタラグランタ」が内包する、残り7ないし8篇のテキストの翻訳・校訂にとりかかる。「ウパーリ問答」(修士論文)→「ニダーナ」(博士論文)→「ムクタカ」という順序で、「ウッタラグランタ」中の三大テキストの解明は終えることになるので、続いて四番目に大きい「ヴィニータカー」を取上げる予定であるが、その三分の一ほどは、既に解読し終えている。『薩婆多部毘尼摩得勒伽部』との対応箇所も既に把握している。従ってその全貌解明には、それほど多くの時間を要することはないと思われる。以降同様の手法を用いて、残り6乃至7篇のテキストの全貌解明を進める。
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Research Products
(2 results)