2015 Fiscal Year Annual Research Report
インド仏教教団の信仰活動の実態:『ウッタラグランタ』全訳と祝祭の研究
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14J08294
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
岸野 亮示 佛教大学, 仏教学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 根本説一切有部律 / ウッタラグランタ / 目得迦 / ムクタカ / 阿含 / アヴァダーナ / グナプラバ / ヴィナヤサングラハ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究の主たる研究対象である、「根本説一切有部律」という仏教の戒律テキストの第4番目の章で、チベット語訳でのみ現存する「ウッタラグランタ」(デルゲ版で約500葉)というテキスト集成の研究を更に進めた。中でも「ウッタラグランタ」に内包されている『ムクタカ』というテキストを集中的に研究した。具体的に言えば、既に作成した和訳原稿を基に、①チベット語訳テキスト(約60葉)と、単独のテキストとして伝わる義浄訳テキスト(『目得迦』大正大蔵経で約20頁)との対照テキストを作成し、②両テキストに見られる「法要」に関する情報を収集するとともに、③「根本説一切有部律」の他章や、経典集および説話集とのテキスト上のパラレルを同定し、そして、④中世インドの学僧であるグナプラバ(5―7世紀頃)が著した『ヴィナヤ・スートラ』(とその自註)およびヴィシェーシャミトラ(7世紀以前)が著した『ヴィナヤ・サングラハ』という「根本説一切有部律」の二大綱要書において言及される『ムクタカ』のテキストをできる限り回収する、という四つの作業である。その成果の一つとして、『ムクタカ』の解題、蔵漢テキストを対照させたシノプシス、経典集と説話集に見られる四つのパラレル(1漢訳「中阿含」およびパーリ語「マッジマ・ニカーヤ」に収録されている「分別布施経」との完全な並行話と、2漢訳「雑阿含」およびパーリ語「サムユクタ・ニカーヤ」に収録されている「祖母経」との並行話、3『アヴァダーナ・シャタカ』中の「毒ヘビ譚」と酷似する物語、4『ボーディサットヴァ・アヴァダーナ・カルパラター』に収録されていることで知られる「シュリーグプタ長者譚」の詳細ヴァージョン)の指摘を含んだ論文を英文で発表した。これらの指摘・発見は、従来、単なる付加的文献として軽視され続けてきた『ムクタカ』の資料的価値の高さを裏付ける傍証として重要であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、上記の「ウッタラグランタ」研究を進める一方で、数年前より本格的に解読を進めている、チベットの大学匠プトン(1290-1364)の「根本説一切有部律」に関する著作の研究も進めた。プトンは「根本説一切有部律」に関する著作を少なくとも六つ残しているが、本年度は、その中の一つである『'Dul ba spyi'i rnam par gzhag pa 'dul ba rin po che'i mdzes rgyan(律の総説)』という著作(全集で約70葉)を集中的に取り上げた。この著作は、チベットに伝わった「根本説一切有部律」および、その注釈書や綱要書の一つ一つに対して、プトンが解題を施したものであり、『ムクタカ』を始めとする「ウッタラグランタ」に内包されたテキストについても、興味深い説明が加えられているのである。そもそも、チベットにおける「根本説一切有部律」の伝承史は、全くと言っていいほど研究されておらず、「根本説一切有部律」に焦点を当てたチベット人の著作の存在も殆ど報告されていない。そのような中で唯一の例外とも言えるのが、仏典に普く通じ、チベット大蔵経の枠組みを創設したことで知られるプトンの「根本説一切有部律」に関する六つの著作なのである。特に『律の総説』は、律テキスト全般に対する概説的な内容であるため、「ウッタラグランタ」の全貌を解明するのに有益であるばかりか、未だ謎の多いチベットにおける戒律テキストの伝承を究明するのに役立つ、唯一無二の資料なのである。それゆえに時間をかけて念入りに解読したところ、「ウッタラグランタ」研究の進捗状況がやや遅れることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、先ず『ムクタカ』の蔵漢対照の校訂テキスト(綱要書や注釈書に引用・言及されている「ムクタカ」のテキストの指摘も含む)と翻訳の精度を上げる作業、および「ウッタラグランタ」に内包されている他章の解読を終わらせる。また「根本説一切有部律」全体に散見される「法要」に関する情報の回収・整理を貫徹する。それと並行して、プトン著『律の総説』の解読も更に進める。
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Research Products
(3 results)