2015 Fiscal Year Annual Research Report
財政金融政策の不確実性とマクロ経済:政治経済学的アプローチ
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14J08301
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田中 昌宏 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 財政赤字 / 国債 / 金利 / ベイズ推計 / 逐次モンテカルロ法 / 変分ベイズ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)財政の不均衡が国債の利回りに影響を及ぼす条件に関する実証分析 標準的な経済理論によれば、累積政府債務の増大や財政収支の赤字といった財政の不均衡は国債の利回りを押し上げるはずである。しかし、現実に観察される財政不均衡と国債利回りの関係は理論が想定するほど明確でない。この研究では、国際パネルデータを用いて、どのような条件の下で財政赤字の不均衡が国債の利回りに影響するかを実証分析した。主な結果は次の二点である。単年度財政赤字や累積政府債務と国債の利回りの相関はあまり強くない一方、累積政府債務に直近10年間基礎的財政収支の上限や実質GDP成長率のボラティリティの情報を加えて算出した簡易的なデフォルト確率は国債の利回りと明確な相関を持つことを明らかにした。一般に、発行国債の保有者に占める自国民の比率が低いと、財政の不均衡が国債の利回りに反映しやすくなるとされているが、この分析で用いたデータではその関係は有意ではなかった。一方、発行国債の自国通貨比率が低い国ほど、簡易デフォルト確率と国債の利回りの相関が強くなることが分かった。 (2)Variational BayesとSequential Monte Carlo Samplerを融合した高速なベイズ推計法 この研究プロジェクトではVariational Bayes (VB)とSequential Monte Carlo Sampler (SMCS)という二つの特性の異なるベイズ的手法を組み合わせることで、高速かつ高精度で事後分布を得る手法を開発した。この研究の主たるアイディアは、SMCSと並行してVBを実行してターゲットとなる事後分布を近似し、その近似分布からもサンプリングするというものである。VBがSMCSを先回りしてターゲットの分布を粗く近似することで、SMCSの(特に初期のステップにおける)非効率性を補うことを狙っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、本年度は財政政策と金融政策の相互作用について研究する予定であったが、想定していた方法が計算負荷の問題で現実的には実行が難しいことが分かったことと、依拠していた理論モデル(物価水準の財政理論)に重大な疑義が生じたことから、研究計画を二つの方向で修正した。 一つは、理論的負荷の小さい計量モデルによる実証分析である。この研究プロジェクトでは、財政の不均衡と国債金利の関係が貨幣制度と密接な関係を有していることを明らかにした。簡易的なデフォルト確率を算出して計量モデルに取り込むというアイディアによって、既存の研究では明確でなかった統計的関係をよりシャープに分析することができた。この研究で得られた結果は、今後の理論研究の方向を示唆するものであり、特定の理論仮説の検証という以上の含意があると考える。 もう一つの修正の方向は、高速なベイズ推計法の開発である。この研究は当初計画になかったものであるが、研究課題を進める中で必要が生じため、計画を変更して取り組んだ。通常のマクロ経済モデルは均衡解を線形ガウシアンの状態空間表現に持ち込んで実証分析を行う。一方、本研究計画のように金融データを真正面から扱う場合には、均衡解が非線形・非ガウシアンの状態空間表現にならざるを得ないため、計算量が膨大になってしまい、現実的な時間で実証分析を行うことができない。本年度に開発した手法は次年度の研究の遂行に資するだけでなく、本研究課題を超えて幅広く実証分析に応用できるものであり、研究の意義は大きいと考える。 修正に時間を有したため、成果物は多くないが研究は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、政策当局と民間経済主体の間でマクロ経済に対する認識の乖離を中心に研究を進める。通常のマクロ経済分析では、政策当局は民間経済主体とマクロ経済に対する認識を共有しており、(社会厚生を最大化するという意味で)最適な政策を実行していると想定されている。IS-LMモデルはLucas批判以降、経済学研究からはほぼ完全に放逐されたが、学部教育では依然として中心的な存在である。そのため政治家・官僚・ジャーナリスト等の政策関係者は民間経済主体以上に短期的/静学的な世界観にとらわれているように思われる。したがって、政策関係者は経済学を学んだがゆえに、非効率な政策を実行している可能性がある。 この研究プロジェクトでは、政策当局と民間経済主体がそれぞれ異なるマクロ経済モデルに基づいて最適化を行った結果としてどのような均衡が生じ、その帰結がどのような定量的インパクトを有するかについて検証する。
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Research Products
(2 results)