2014 Fiscal Year Annual Research Report
植物遺存体分析からみたトランスコーカサス最初期の農耕とその定着プロセス
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14J08309
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤司 千恵 東京大学, 総合研究博物館, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 南コーカサス / 新石器時代 / 植物考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は、まず8月から9月にかけて、アゼルバイジャンのハッジ・エラムハンル・テペ遺跡の発掘調査に参加し、植物遺存体分析のための土壌サンプルを採取した。土壌サンプルは現地で水洗選別(フローテーション)処理を行い、中に含まれている植物遺存体(炭化物)を回収した。また、同じくハッジ・エラムハンル・テペ遺跡から、出土した日干レンガの破片もサンプリングした。日干レンガには籾殻やワラなどの植物が混和されていることが多いので、シリコンを用いて植物と思われる圧痕のレプリカを採取した。 今年度中にサンプリングした分析資料は、まだ日本に送付されていないが、2013年夏までに回収した、ギョイテペ遺跡およびハッジ・エラムハンル・テペ遺跡の植物遺存体資料の分析を進めた。出土植物は、実体顕微鏡下で観察し、同定可能な種実とそれ以外を分け、現生標本と見比べながら同定作業と写真撮影を行った。 これまでの分析で、ギョイテペ遺跡とハッジ・エラムハンル・テペ遺跡とでは、作物の選択に大きな違いがあることが分かっている。先行するハッジ・エラムハンル・テペ遺跡では、多く出土する穀類は皮性コムギとオオムギであるのに対し、すぐあとに居住が始まるギョイテペ遺跡では、皮性コムギ、オオムギに加えて裸性コムギが高い割合で出土する。作物だけでなく動物骨や土器、石器などの人工遺物の観察からも、両遺跡の間にはさまざまな差異が認められる。これらの研究結果は、他の発掘隊メンバーとともに、現在学雑誌に投稿中である。 そのほか、グルジアとキプロスで遺跡・博物館見学、現生標本採集を実施した。また、各国で伝統的な植物利用に関する書籍の収集も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度に採取したサンプルについては、まだ日本に送付されていないため、分析はまだ行っていない。代わりに2013年までのシーズンに採取したサンプルの分析継続と、ギョイテペ遺跡の貯蔵施設の利用復元研究をすすめた。 過去のシーズンからのサンプル分析においては、特にハッジ・エラムハンル遺跡の大型住居からグリッド・サンプリングしたサンプルに重点をおいた。これらの面的に採取したサンプルからは、植物遺存体の住居内における分布を復元することができる。ギョイテペ遺跡でも同様のグリッド・サンプリングを行っており、将来的に二つの遺跡の相違点、類似点をより詳細に比較することができれば、人々の活動や考え方にもアプローチ出来ることが期待できる。 ギョイテペ遺跡の貯蔵施設の一つについて、内容物を大型遺存体、プラントオパール分析、マイクロモーフォロジーから分析した共同研究では、もみ殻を貯蔵していた可能性が高いという結論を得た。貯蔵施設といわれる遺構でも、実際に内容物が判明するケースは少ない。ハッジ・エラムハンル遺跡でも同様の貯蔵施設が見つかっているので、同様の分析を行って比較を試みる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
ギョイテペとハッジ・エラムハンル遺跡では、グリッド・サンプリングを含めると、すでに200点以上の植物分析用サンプルを採取することができた。今後はこれらのサンプルから、両遺跡における植物にまつわる活動を復元・比較できるサンプルを選んで、優先的にソーティング・同定を進める予定である。 具体的には、すでにある程度結果が出ているギョイテペの貯蔵施設と比較しうるハッジ・エラムハンル遺跡のサンプルと、ハッジ・エラムハンル・ギョイテペ両遺跡の住居床面から採取したサンプル、そして日干しレンガから採取した植物圧痕である。筆者の大型遺存体分析のほか、マイクロモーフォロジー、プラントオパール用のサンプルも採取しており、ギョイテペの貯蔵施設の研究のように、多角的な空間利用の復元を目指す予定である。 作物や他の遺物、遺構に見られる様々な変遷の過程をより詳細に明らかにし、ほかの南コーカサスの同時期遺跡と比較できるデータを提供し、同地域における新石器化のプロセスの全容解明を目指す。
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Research Products
(5 results)