2014 Fiscal Year Annual Research Report
低容量ストレス応答におけるヒストンシャペロンHIRAの機能解析
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14J08310
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長垣 良和 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 低容量ストレス / ストレス応答 / ヒストンシャペロン / ヒストンH3.3 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
個体や細胞は、常に変動する内的・外的環境の変化(以下、これをストレスと呼ぶ)に曝されている。従来のストレス応答研究は、ほとんどの場合、細胞死や細胞老化の誘導といった明瞭な表現型をもたらす比較的高容量のストレスに対する生体反応を対象としていた。しかし、個体や細胞は、常時起きている低容量ストレスに対しても、明瞭な表現型を示さないが応答している可能性がある。そのような低容量ストレスを受けた経験の積み重ね、すなわちストレスの記憶は、生物ゲノムに作用して遺伝的あるいはエピジェネティックな変化をもたらし、生物が来るべき環境により適応できるようにすることは十分に考えられることである。しかし、低容量ストレスに対する生体応答は明瞭な表現型の観察が困難であるため、研究がほとんど進んでいない。 我々は、ヒト正常線維芽細胞を用いて、低容量ストレス応答におけるヒストンシャペロンHIRAの作用機構の解明を目指す。HIRA はクロマチン上のヒストンH3 のアイソフォームH3.1 をH3.3 に置き換える。一般的に、ヒストンH3.3は転写活性化されている遺伝子領域に多く見られることが知られている。我々は、低容量ストレス状況下におけるHIRAによる遺伝子発現制御とクロマチン構造調節に着目して研究を進めてきた。まず、細胞が低容量熱ストレスを受けた時にHIRA依存的に発現が誘導される遺伝子群を同定した。次に、それら低容量ストレス応答遺伝子のゲノム領域にHIRAが局在し、さらにヒストンH3.3とRNA合成酵素IIも局在することを示した。これらの結果から、低容量ストレス応答においてヒストンシャペロンHIRAが、特定の遺伝子領域に作用し、ヒストンH3.3とRNA合成酵素IIを動員することで遺伝子発現を誘導することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
低容量ストレスに対する生体応答は表現型の観察が困難であるため、その応答機構は未解明であった。我々は、遺伝子発現変化とクロマチン構造変化に着目することで、その一端を明らかにした。第一に、当初の計画通り、低容量ストレス条件下で発現量が変化する遺伝子群をマイクロアレイ発現解析により同定した。その結果、一連の熱ショックタンパク質が低容量熱ストレス条件下で発現誘導されることを明らかにした。また、低容量熱ストレスで処理したHIRA機能抑制細胞においては、これら熱ショックタンパク質の発現量が低下することを示した。第二に、低容量熱ストレスで処理した細胞において、HIRAが熱ショックタンパク質の遺伝子領域に局在していることをクロマチン免疫沈降法により示した。さらに、HIRAの基質であるヒストンH3.3と、メッセンジャーRNAの合成を行う RNA合成酵素IIの局在も、HIRAと同様に増加した。これらの結果から、低容量ストレス条件下においてHIRAは、RNA合成酵素IIやヒストンH3.3を熱ショックタンパク質遺伝子領域に動員することで、その転写を促進していることが示唆された。当初の予定に加えて、HIRAが作用する領域に特徴的なヒストン修飾が見られるかも検証した。ヒストンH3のメチル化やアセチル化などの化学修飾がHIRAの局在と相関があることがわかり、今後より詳細に解析する予定である。第三に、皮膚組織特異的なHiraノックアウトマウスを作製した。現在、Hiraをノックアウトした皮膚組織の特徴を観察中である。 以上の結果から、低容量ストレス応答においてヒストンシャペロンHIRAが、特定の遺伝子領域に作用し、ヒストンH3.3とRNA合成酵素IIを動員することで遺伝子発現を誘導することを明らかにした。よって、本研究は「当初の計画以上に進展している」と自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
第1年度は、低容量ストレス条件下でのHIRAの局在を、発現量変化が見られるいくつかの遺伝子座を対象に解析してきた。今後、低容量ストレス応答時のHIRAの局在を網羅的に調べるため、HIRAのクロマチン免疫沈降産物の全塩基配列を次世代シーケンサーにより解析する。また、HIRAが作用する遺伝子領域において、ヒストンH3.3の配置と、特徴的なヒストン修飾を分析し、低容量ストレス応答時のクロマチン構造の変化を詳細に解析する。さらに、低容量ストレス応答時にHIRAと相互作用し、HIRAの局在変化に関与している蛋白質を特定するため、質量分析法を用いてHIRAに結合する蛋白質を同定する予定である。従来のストレス応答研究では、主に転写因子等による個々の遺伝子の発現調節が着目されてきた。一方、本研究で着目しているHIRAは、クロマチン構造をより包括的かつ動的に制御する因子である。本研究による成果は、細胞がストレス条件下で大規模に遺伝子群の発現調節を行う仕組みを理解することにつながると期待される。 また、哺乳類細胞が低容量ストレスに高い適応度を得て進化していることを示すため、クローン性進化で悪性化する発がん実験系を利用する。今後、皮膚特異的Hiraノックアウトマウスの背部皮膚に発がん物質DMBAと炎症誘発物質TPAを繰り返し塗布することで皮膚発がんを誘導し、腫瘍の発生頻度およびその悪性化の程度を測定する予定である。
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Research Products
(1 results)