2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J08357
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
高田 宏史 国際基督教大学, 社会科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 世俗主義 / 政治 / 宗教 / 多文化主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、主としてポストコロニアリズムならびにポスト構造主義の影響を色濃く受けたポスト世俗主義の内在的分析を昨年度から継続しただけでなく、ポスト世俗主義の方法論としての解釈学と系譜学の研究に取り組んだ。また、同時にロバート・ベラーの市民宗教論と、ホセ・カサノヴァらに代表される公共宗教論との比較、ならびにその政治理論的含意についての研究を行った。 まず、内在分析に関していえば、チャールズ・テイラーの『世俗の時代』以降の議論を、その反響と併せつつ考察した(「チャールズ・テイラー『世俗の時代』」、下記『社会科学における善と正義』所収)。また、サバ・マハムードの新著Religious Difference in a Secular Ageの分析に着手し、現在論文はほぼ完成している(邦語論文として2016年に発表予定)。次に方法論に関しては、解釈学的政治理論の代表者であるジョージア・ウォンキーの議論と系譜学的政治理論の代表者であるウェンディ・ブラウンの議論を整理したうえで、前者の方法論を採用するテイラーと、後者の方法論を採用するジュディス・バトラーやマハムード、タラル・アサドの議論の比較を行った。論文はまだ完成には至っていないが、本年度中に完成させ、関連学会誌に投稿予定である。最後に市民宗教と公共宗教に関しては、晩年のベラーのコスモポリタン的な市民宗教論と、具体的・歴史的な宗教に着目するカサノヴァの公共宗教論を比較し、両者の目指す方向性の差異を確認したうえで、ポスト世俗主義という観点から両者の政治理論的意義の評価を行った。この論文に関しては英語論文として執筆され、現在英文校正を行っている。英文校正が終了次第、海外の主要査読誌(Political Theoryなど)に投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、当初の予定をやや修正しつつも、研究はおおむね順調に進展している。その理由として、まず第一に、とりわけ、主要なポスト世俗主義の諸理論に関してはその内在的な分析をほぼ完了しているということがあげられる。テイラー、アサド、コノリーに加え、マハムードやベラー、カサノヴァらの理論の分析を行っただけでなく、彼らの議論と比較するかたちでロールズ、ハーバーマス、ナディア・ウルビナティ、ビクー・パレク、ブラウン、バトラーらの議論の分析を行った。これらの成果のうち、いまだ刊行に至っていないものもあるが、それらは英文校正、査読、修正のプロセスによるものが原因であり、研究自体は順調に遂行されている。 さらには第二の理由として、当初の予定には組み込んでいなかったポスト世俗主義の方法論的な批評を行うことで、その「政治理論」としての意義の分節化をよりはっきりと打ち出せるようになったことがあげられる。ポスト世俗主義の諸理論を、より大きな現代政治理論における方法論的布置――分析的政治理論と解釈的政治理論という二つの方法論の併存――のなかに位置づけることにより、その政治理論的意義を、「社会統合」という観点のみに限定していた当初の予定よりも明示的に分節化することができた。 以上が、私が研究の進展がおおむね順調であると評価する理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、主として以下の二点、すなわち、ポスト世俗主義諸理論の内在分析の完成と、日本におけるその理論的・実践的意義の分節化を目指す。 第一に、ポストコロニアリズムやポストモダニズムの見地から世俗主義の在り方を問い直す「ポスト構造主義」について、その主要理論家たち(タラル・アサド、ウイリアム・コノリー、サバ・マハムード)の議論の内在的分析とその規範モデルの提示を引き続き行い、その研究を完成させるとともに、彼らの採用する方法論の分析を推し進め、その政治理論的意義を分節化する。第二に、ポスト世俗主義の政治理論が日本の政教関係をめぐる諸論争に与えうる理論的・実践的意義を考察する。とりわけ本年度は、柳田國男による「民俗学」の発明を、ポスト世俗主義の政治理論から得られた諸知見をもとに、ひとつの「解釈的政治理論」(系譜学、解釈学といった思想史・社会史・精神史などの歴史解釈を方法とする政治理論)の構築として分析し、同時代の諸議論や柳田による後続世代への影響などを踏まえつつ、その意義を明示する。 以上二つの課題を達成するために、私は本年度4月から8月にかけて、UCバークレーの日本研究所にて客員研究員として研究に取り組む。UCバークレーには、ポスト世俗主義ならびに系譜学的政治理論の代表的理論家たち(ウェンディ・ブラウン、ジュディス・バトラー、サバ・マハムード)が在籍しているだけでなく、日本の社会科学の歴史・思想に関する研究の第一人者であるアンドリュー・バーシェイ教授が在籍している。UCバークレーの豊富な資料を利用しつつ論文の執筆を進め、各段階において上記理論家・研究者たちにアドバイスを受けつつ、研究を完成させることを目指す。帰国後は、上記の研究を継続させ論文の完成を目指すとともに、これまで完成させた諸論文とあわせ、書籍として出版するための準備を行う。
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Research Products
(2 results)