2015 Fiscal Year Annual Research Report
培養神経系が形成する認知モデルの解析に基づく教師なし学習と統合失調症の融合的理解
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14J08435
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
磯村 拓哉 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ブラインド信号源分離 / 独立性分分析 / 事後確率最大化推定 / 自由エネルギー原理 / 培養神経回路網 / 微小電極アレイ / 計算論的精神医学 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳を含む神経システムの記憶・学習は、経験的には機械学習的な数理モデルにより説明できると考えられている。そこで、ブラインド信号源分離(blind source separation; BSS)および事後確率最大化(maximum a posteriori; MAP)推定に着目する。BSSは、混ぜ合わさった複数の入力からその背後にある個々の信号源を取り出す手法であり、カクテルパーティ効果の脳内メカニズムであると考えられている。また大脳皮質は、MAP推定により外界のダイナミクスを推定していると考えられている。しかし、実際の神経回路網のふるまいを本当に機械学習により説明可能か否か、どのような構造・学習則で実装されているのかは全く分かっていない。そこで、微小電極アレイ上の培養神経回路網がBSSおよびMAP推定を実行可能であるかを調べた。 入力刺激を14時間印加し続けた結果、神経回路網がBSSを行い、応答が変化して混合前の信号の一方を再現することを発見した。つまり、1ニューロンのレベルにおいても片方の信号源の情報を抽出できることが示された。またこの学習が、脳高次機能の統一理論の候補“自由エネルギー原理”の予言通りに、自由エネルギーを最小化させるようなシナプス結合の変化により起きることを、初めて電気生理学的に示した。さらに、4つのランダムドットパターンからなるシークエンス入力を印加したとき、培養神経回路網は現在の入力に基づき次の入力パターンをMAP推定できることを示した。 以上の結果は、成体由来の神経回路網における学習が機械学習の理論・モデルにより説明可能であることを示唆している。加えて、これらの学習能力が、ドーパミンにより抑制されることを示唆する結果を得た。ドーパミン濃度上昇が、幻覚・妄想を引き起こす機序を調べるためのin vitroモデルとして役立つと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
培養神経回路網がブラインド信号源分離能力を有すること、およびこの学習が自由エネルギー原理に従うことを報告した論文がPLoS Computational Biologyに掲載された。また、この能力の精度がドーパミンによる神経修飾を受けることを示す結果を得た。さらに、培養神経回路網が入力の時間発展を事後確率最大化推定することを観察した。理論研究においては、ブラインド信号源分離と神経修飾および自由エネルギー原理を繋ぐ数理モデルの構築を行った。以上の理由から、全体の進展は当初の計画以上に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
培養神経回路網のブラインド信号源分離能力と事後確率最大化推定能力が、ドーパミン添加により受ける影響を体系的に調査する。また細胞集団間の相互作用に着目し、学習時の各細胞集団のふるまいを解析する。実験結果に基づき、ブラインド信号源分離と事後確率最大化推定およびその神経修飾を統一的に記述可能な、生理学的に妥当な数理モデルを構築する。
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Research Products
(10 results)