2015 Fiscal Year Annual Research Report
性拮抗的選択圧が生物間ネットワークの安定性に与える影響:理論・実証両面からの検証
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14J08450
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
川津 一隆 龍谷大学, 研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 理論群集生態学 / 生物群集の複雑性-安定性関係 / 群集-進化フィードバック / 性特異的相互作用 / 性差の進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
進化・行動生態学の進展は,性選択や性的対立などの性特異的選択圧が働くことにより,資源利用形質や繁殖行動,種間相互作用などの様々な点において性差がもたらされることを明らかにしてきた.これらの性差を群集生態学のレベルで考えると,食物網のエネルギーフローに大きな影響を与える.そのため,見かけのフローが同じでも性差が異なる群集間では,その動態が大きく異ることが予想される. 本研究では,まず最小の群集構造であるギルド内捕食系を用いることで,性差の存在により食物網の動態が改変されることを理論的に示した.さらに,理論を多種系に拡張することにより,性差の存在が生物群集の安定性に影響すること,また群集生態学における複雑性-安定性関係の解決につながりうることを理論的に示した.これらの研究をまとめた論文は国際学術誌Ecology and Evolutionに掲載された. また,これまでの研究をさらに一般化し,進化の副産物であるムダ形質の存在が群集動態に与える影響を理論的に調べる研究にも着手しつつある.そのスタートアップのために関連する研究者を集めたワークショップを開催した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度までの研究によって,1)種間相互作用や繁殖への投資といったエネルギーフローに関わる群集レベルの性差が,性選択や性的対立によって進化しうること,2)群集レベルの性差が食物網動態に影響を与えること,3)繁殖への投資,捕食行動,捕食圧という三種類の性差はそれぞれが相乗的に食物網動態に影響を与える,4)高次の栄養段階では捕食行動の性差が,低い栄養段階では捕食圧の性差が動態に与える影響が大きいこと,5)多種系において,性差の存在が複雑性-安定性関係を改変しうること,の5点が理論的に明らかとなっている. これらの成果のうち,1,2については当初の計画から予測されたものであり,更に3-5については当初の計画にはなかった新しい発見である.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から,繁殖の投資におけるオスのムダが,その他の種間相互作用の性差と結びつくことが群集動態に大きな影響を与えることが示唆されている.本年度は,この進化の副産物として産まれる生態レベルのムダこそが,群集の安定性に大きく寄与しているという仮説を実証する研究を行う.具体的には,種間相互作用の効率化と種内相互作用の効率化との間のトレードオフを考え,それらの間の進化と動態に与える影響とのフィードバックを考慮したモデルを構築する.そのモデルを解析することで,生物群集を安定化させるムダ形質が進化しうる条件を推定する.また,様々な環境で進化した行動レベルの形質を生態的にムダかどうかで定義し直すことで,モデルから得られた結論がどの程度妥当かを考察する.
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Research Products
(2 results)