2014 Fiscal Year Annual Research Report
レセプターとの相互作用様式にもとづく昆虫前胸腺刺激ホルモンの種特異性の解明
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14J08461
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
此上 祥史 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 前胸腺刺激ホルモン / Torso / 細胞膜レセプター / ジスルフィド結合 / 二量化 / 膜貫通領域 |
Outline of Annual Research Achievements |
前胸腺刺激ホルモン(PTTH)は、昆虫の脱皮や変態などの現象を厳格に制御している神経ペプチドである。PTTHのアミノ酸配列は昆虫種によって多様性が高く、種間の交差活性も低いため、PTTHのレセプターはそのようなPTTHの構造上の違いを厳格に認識しているものと思われる。最近になってTorsoという細胞膜タンパク質がPTTHのレセプターであることが報告されたので、本研究では、TorsoによるPTTHの分子認識機構を分子構造レベルで明らかにすることした。 本年度は、①まず、リガンド[カイコガPTTH]の大量調製法の確立を行った。カイコガPTTHは、大腸菌で発現させると必ず不溶性画分に行ってしまい、リフォールディングなどの過程を経ても少量しか調製できない。そこで、分泌発現系をもつブレビバチルス菌を用いてカイコガPTTHを発現させ、培養液中に分泌された可溶性タンパク質として回収することに成功した。また、可溶性の状態になっていれば、数本のカラム精製を経て活性型の二量体PTTHのみを単離・精製できることがわかった。②次に、PTTHのレセプター[カイコガTorso]についてそのリガンド応答の分子機構の解明を試みた。S2培養細胞にカイコガTorsoを一過的に発現させ、リガンド刺激の有無によるレセプターの二量化について調べた。Torsoは1本鎖のチロシンキナーゼ型レセプターの一種なので、リガンド刺激によって細胞膜上で二量化することが期待されるが、非還元条件下でのSDS-PAGEなどを駆使して解析したところ、Torsoは、膜貫通領域にあるジスルフィド結合を介してリガンド刺激前から二量化していることが明らかになった。また、膜貫通領域のシステイン残基をフェニルアラニンに置換したところ、細胞内の下流シグナル経路に存在するERKのリン酸化が観測されなくなったしまったので、Torsoのリガンド刺激に対する正常な応答のためには必この膜貫通領域のジスルフィド結合が必須であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、レセプター[カイコガTorso]の細胞外領域と安定同位体標識されたリガンド[カイコガPTTH]の大量調製を完了する計画であった。カイコガTorsoの細胞外領域のみを有する変異体(EC変異体)の調製に関しては、最も時間のかかるS2培養細胞の安定発現株の樹立はすでに済ませ、培養培地に分泌されたものを精製すればよいだけの状況になっている。また、安定同位体標識カイコガPTTHの調製に関しても、現在、標識用培地を用いて培養条件等を鋭意検討中であり、近日中に標識されたカイコガPTTHの調製を完了する予定である。 ただし、本年度の研究によって、Torsoが膜貫通領域のジスルフィド結合で二量化しておりかつそのジスルフィド結合がリガンド応答に重要であるという新規の知見が明らかになったので、レセプター側に関しては、EC変異体に加えて、細胞外領域と膜貫通領域との両方を持ちジスルフィド結合で二量化された変異体(ΔK変異体)もあわせて調製しようと考えている。これにより、当初の研究計画には多少の遅れが生じるものの、PTTHとの相互作用を解析する際には、どのようなTorso変異体を用いれば生理的に意味がある結果が得られるのかについていずれ検討しなければならないので、今後生じる課題を前倒しして検討しているとみなすことができる。 Torsoに関する新らたな知見の発見の優位性を考慮すれば、本年度は、多少の研究計画の遅れを勘案しても、研究全体としてはおおむね順調に進展していると判断できる。なお、現在、Torsoの二量体構造に関する新たな発見については学術雑誌に投稿すべく論文原稿をまとめているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果を活かし、次年度は、カイコガPTTHとカイコガTorso細胞外領域(EC変異体とΔK変異体)とを大量に調製し、表面プラズモン共鳴(Biacore)や等温滴定型カロリメトリー(ITC)を用いて、リガンド-リセプター間の親和性を測定する。これにより、Torsoの膜貫通領域にあるジスルフィド結合が、実際にリガンド認識に対して積極的に影響を及ぼしているのかを明らかにする。 また、13Cや15Nで標識されたカイコガPTTHを調製し、そのNMRスペクトルをTorso細胞外領域(EC変異体やΔK変異体)で滴定することにより、PTTHのどのアミノ酸残基がTorsoによって認識されているのかを明らかにするとともに、Torso膜貫通領域のジスルフィド結合によって認識部位に変化が生じるのかを突き止める。 現在、カイコガ以外の昆虫種のPTTHも調製中であり、上記のような相互作用解析を積み重ねることにより、レセプターによるリガンド認識の観点からPTTHの種特異性の高さを明らかにする予定である。
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Research Products
(5 results)