2014 Fiscal Year Annual Research Report
ペルーの学校教育における民衆教育の受容-その理念と実践
Project/Area Number |
14J08507
|
Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
工藤 瞳 帝京大学, 外国語学部, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 民衆教育 / ペルー / NGO |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ラテンアメリカにおいて社会的弱者のエンパワーメントによる社会の変革を目指す、ノンフォーマル教育を中心とした民衆教育の思想や実践が、学校教育に取り入れられることでどのように変容するのか、また時代の変化にどのような影響を受けたのかを、ペルーの事例を中心に明らかにすることである。 平成26年度はまず、ラテンアメリカ17カ国で学校教育やノンフォーマル教育を提供するカトリック系国際NGOフェ・イ・アレグリアの活動の文脈において、民衆教育という言葉が、教育機会の乏しい貧困地域の子どもが学校教育を受けることで、漸進的に社会を変える主体となることができるようになる、という論理で用いられていることを明らかにした。さらにペルーの場合、半世紀を超える活動を経て、フェ・イ・アレグリアの強調する「民衆教育」の内容は、単に貧困地域で学校教育を提供するだけでなく、より高い学習到達度を目指すものへと変容している。 民衆教育の変容は、学校教育との関連においてのみならず、民衆教育全体をめぐる議論にも見られることが明らかになった。ラテンアメリカ各国の民衆教育に関するNGOの連合団体であるラテンアメリカ・カリブ民衆教育協議会(CEAAL)の議論によると、とりわけ冷戦終結後の1990年代以降、階級間の差異を問題とする民衆教育の思想が時代遅れになるとともに、ラテンアメリカ各国での軍事政権の民政移管に伴い、従来の政権に対する対決姿勢からの転換が求められ、民衆教育を支えるパラダイムの再構築が目指されるようになった。 一方でペルーの教育政策においても、民衆教育に影響を受けた共同体教育という政策があることが明らかになった。ただし共同体教育においては、先住民の知の継承など、よりインフォーマルな教育活動や文化的要素を重視し、民衆教育とは既存の産業社会に資することが目的であるとする批判的姿勢が見られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、「全人的な民衆教育と社会振興の運動」と自己規定するフェ・イ・アレグリアのペルーでの学校教育活動について、これまでに行った研究を踏まえ、現地調査を行い、結果を日本比較教育学会の学会誌『比較教育学研究』第50号に発表した。これに加えて、民衆教育に関する全体的な議論の変化を把握するため、ラテンアメリカ・カリブ民衆教育協議会(CEAAL)の議論を検討し、日本比較教育学会第50回大会で口頭発表を行った。また教育政策と民衆教育との関連について、ペルーにおいて民衆教育の影響を受けた共同体教育政策の特徴と課題、民衆教育との違いに着目し、関係者へのインタビューや全国会議への参加により、資料・情報を収集した。この結果は日本ラテンアメリカ学会東日本研究部会において報告した。 当初の研究計画においては、学校教育における民衆教育の変容を中心課題としていたが、社会状況の変化を受けた民衆教育自体の変容に関する議論や政策との関連等、より広い視点から民衆教育の変容について捉えることができたため、(2)おおむね順調に進展していると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の調査・研究では、民衆教育の現状や意義に関して肯定的意見・否定的意見があることが明らかになった。このため平成27年度は、民衆教育の現状や意義に関する視点の類型化を図るとともに、それにどのような思想や教育政策、社会状況の変化、国際的潮流が影響したのかに焦点を当て、研究を推進する。
|
Research Products
(5 results)