2015 Fiscal Year Annual Research Report
ペルーの学校教育における民衆教育の受容-その理念と実践
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14J08507
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
工藤 瞳 帝京大学, 外国語学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 民衆教育 / ペルー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ラテンアメリカにおいて従来成人教育の領域を中心に行われてきた民衆教育の理念や実践が、学校教育においてどのように変容するのかを明らかにすることである。平成27年度は学校における民衆教育の変容に加えて、民衆教育自体がどのように変容したのかを明らかにするため、ペルーを中心に、ラテンアメリカの民衆教育の現状の解釈の類型化を行い、①民衆教育は現在も存在する、テーマが広がったとする立場、②民衆教育から受け継ぐ思想・活動はあるが、それらは民衆教育とは別のものであるとする立場、③民衆教育の影響力は非常に弱くなったとする立場があると考えた。その際、先住民文化の捉え方、教育制度との関係性が立場を分ける鍵となると考察した。 平成27年9月から10月にかけてのペルーでの調査においては、IEP(ペルー問題研究所)図書室、ペルー・カトリカ大学図書館、市内書店にて文献資料収集を行うとともに、民衆教育から現在の教育政策や実践への影響に関して、かつて労働運動や教員組合活動に関与しながら民衆教育の活動を行った2名の教育大臣・副大臣経験者にインタビューを行った。インタビューによると、彼らは1980年代ごろ、従来民衆教育が行われたノンフォーマル教育の場ではなく学校に着目し、学校を通して社会的不平等を再生産しないことを目指した。彼らは1990年代に在野の立場から政策提言を行い、2000年代の社会・政治環境の変化に伴い教育政策形成に関与するようになった。政府や学校教育制度に対抗しながらそれらの不備を補完する性質を持って生まれた民衆教育は、上記の過程で制度・政策への補完的役割を強め、制度・政策内に取り入れられるようになった。このように政策・制度に取り込まれた民衆教育に対する評価が上記の現状に対する立場の違いとなって表れていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は前年度までの研究成果を踏まえ、日本比較教育学会で口頭発表(民衆教育の現状に関する解釈の違い:ペルーを中心に)を行った。ペルーでの現地調査では、1990年代に政府の政策に対抗して市民団体が政策提案を行った際の資料を閲覧・収集することができた。また1980年代に民衆教育の活動に関与し、のちに教育大臣・副大臣を経験した2名にインタビューを行い、民衆教育や教育政策形成に対する考え方の変化等の情報を得るなど、順調に資料・情報収集を行うことができている。平成27年度はこれまでに収集した資料や事例の分析に集中したため、平成28年度以降研究成果を発表していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度となる平成28年度は、ペルーを中心にラテンアメリカの民衆教育の変容と学校教育への影響について全体的な考察を行い、研究の取りまとめとして博士論文の完成に取り組む。なお平成27年度までの研究で、学校や教育政策において民衆教育が援用される場合、しばしばその目的は「学校教育を通した社会的公正の実現」と言い換えられ、一般的な学校教育の目的へと収斂する傾向にあることが明らかになっている。この背景には、ペルーにおいて教育の市場化・民営化が進み、教育に対する公的支援の軽視が懸念されていることがある。平成28年度の研究ではこうした状況に留意し、民衆教育や市民社会の参加が教育政策形成に果たす役割に関して、昨年度までに収集した文献やインタビュー結果を中心に考察する。本年度までの研究結果については、ペルーに渡航して研究者・関係者に報告し、意見交換を行う。
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Research Products
(2 results)