2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J08701
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
柳 昇桓 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 分子クラウディング / ナノニードル / モレキュラービーコン / mRNA / 原子間力顕微鏡 / 結合速度定数 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内の分子挙動を知ることは、生命活動そのもののダイナミクスを解明することに直結する。分子クラウンディングと呼ばれる細胞内環境は、細胞全体積の20%~40%は様々な生体分子により占められており、緩衝液と全く異なるいくつかの特徴を示す。本研究では細胞内を分子挙動解析の場とし、ナノニードルの挿入によって無標識の標的mRNAを検出することで細胞内の核酸分子挙動を正しく解析することを目的とした。まず、細胞模擬環境における固定化モレキュラービーコンに対する標的ssDNAのハイブリダイゼーション速度の解析を行った。細胞質模擬緩衝液中に1 μMの標的ssDNAを添加し、シリコンウエハーに固定されたモレキュラービーコンの蛍光強度の経時変化を評価した。その結果、時間経過に伴い蛍光強度が上昇し、10分程度で最大蛍光強度に達した。そこで、ssDNAを含まない細胞質模擬緩衝液に交換したところ、蛍光強度の変化は見られないことから、モレキュラービーコンに結合したssDNAは解離しないことが示された。分子クラウディングの効果を調べるために、20%のPEGを添加した溶液で同様の実験を行った結果、結合速度定数はPEGを含まない場合と比べて2倍以上の値となった。次に細胞質のmRNAのハイブリダイゼーションの速度解析を行った。モレキュラービーコン修飾ナノニードルをヒト子宮頸癌細胞HeLa細胞に対して細胞質に挿入し、共焦点蛍光観察によりナノニードル先端部から1 μmの領域の蛍光の経時変化を評価した。モレキュラービーコンとhGAPDH mRNA間の結合速度を求めた結果、細胞質模擬緩衝液での結果と比べて10倍以上、PEGを含む場合と比べても5倍であり、より速い拡散運動をしていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ナノニードル表面に固定されているモレキュラービーコンを用いて標的核酸分子を検出する実験系を用いており、化学的標識を行っていない自然状態の核酸分子がモレキュラービーコンに拡散して結合する速度を測定することが可能である。細胞模擬環境での核酸分子運動と細胞質内の核酸分子運動を比較してみた結果、予想通り細胞質内でより速い拡散運動をしていることが確認できた。細胞内のhGAPDH mRNA の長さが細胞模擬環境で標的核酸分子として用いたssDNAの100倍以上であること、また、細胞質内のhGAPDH mRNA濃度が細胞質模擬実験で用いたssDNA濃度の250分の1に過ぎないことを考えると、この結果は核酸条件が細胞質の方がより不利であるにもかかわらずこのより速い拡散運動をしていることを示している。このように、in vitroの試験からは推測し得ない結果が得られていることから、ナノニードルを用いたその場観察を行うことによって初めて得られる情報があることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
核酸分子の挙動におけるリン酸エステルの影響を調べるために、リン酸基の酸素原子を硫黄原子に置換されたホスホロチオエートオリゴ(Sオリゴ)、主鎖をペプチドに置換したペプチド核酸(PNA)の人工核酸分子を合成する。上記の非天然核酸の2重鎖形成における結合特性は天然のそれと大きく異なるため、モレキュラービーコンの蛍光による結合解析、SPR解析を行い、初年度は緩衝液中での結合特性を十分に調査する。デキストラン、PEG等のクラウンディング剤を添加した緩衝液中で、結合解析を行う。また、モレキュラービーコンを下記に示す方法でシリコン基板上に固定する系としない系での結合解析を行う。 細胞内への標的配列の導入と、モレキュラービーコンによる検出の両方にナノニードルを用いる。標的核酸分子の導入にはATPアプタマーを用いるが、いずれも末端ビオチン化を行うことで、ナノニードル表面への修飾を行う。アプタマー修飾ナノニードルに標的核酸分子を結合させ、HeLa細胞へ挿入する。導入後のHeLa細胞を回収し、PCR解析により細胞内へ導入される標的核酸分子数を明らかにする。標的核酸分子が導入された細胞にモレキュラービーコン修飾ナノニードルを細胞へ挿入する。共焦点蛍光顕微鏡を用いたタイムラプス撮影から得られる蛍光強度の経時変化から、結合解析を行う。3種類の核酸分子に対するモレキュラービーコンの応答を比較することで、天然型DNAのリン酸エステル骨格が分子挙動に与える効果を調べる。非天然核酸については、細胞内での非特異的な相互作用の影響を十分に考慮して解析を行う。 試験した標的配列に顕著な差違が観察された場合には、DNA、Sオリゴ、PNAの誘電緩和スペクトル解析を行い、各分子種の形成するハイパーモバイル水について解析を行う。
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