2014 Fiscal Year Annual Research Report
力の非対称性の逆説:なぜ大国の小国に対する強要が失敗するのか
Project/Area Number |
14J08806
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松岡 智之 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 戦争原因論 / 強制外交 / 武力行使 / 国際政治 / 国際関係論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、大国の小国に対する強要において、大国・小国間の力の非対称が、強要の成否にどのような影響を与えるのかを検討することにある。イラク戦争に代表されるように、米国一極体制の下、超大国たる米国によるイラク等小国への強要は、強要国の圧倒的な軍事力にもかかわらず、しばしば失敗する。なぜ力の非対称は強要の成功を保証しないのか。その理由を明らかにしようとする本研究は現代の国際政治を理解する上で大きな意義を持つ。 一般に大国の力の優位は、小国が要求に従わなければ武力により罰するという威嚇の信憑性を保証することで、強要成功に資すると考えられてきた。しかし本研究では、大国・小国間の力の非対称は、実は逆に、威嚇の信憑性を失わせて強要失敗の原因となると主張する。 研究計画では、本年度は、理論の精緻化、理論仮説を実証するために取り扱う事例の決定、そして、それら事例についての資料収集とその分析に取り組む予定であった。 本年度の実施状況としては、まず理論精緻化の過程において、論理の一貫性を再検討するとともに、その理論仮説が正しいとすれば観察される含意を再考した。その上で事例選択に取り組んだ。 このとき、当初の計画では非対称関係における強要失敗の事例を検証することで、直接的に自己の理論仮説を実証する予定であったが、計画を修正し、直接的検証に加えて、対称関係における強要の事例と非対称関係におけるそれを比較することで、間接的に自己の仮説を証明する可能性をも模索した。 事例の資料収集と分析では、イラク戦争、アフガニスタン戦争、コソボ紛争、冬戦争に取り組んだ。特にイラク戦争・アフガニスタン戦争については、特別研究員奨励費を用いて渡米し資料収集に取り組み、米国政府によるインタビュー調査等によらず、サダム・フセイン政権、タリバン政権の内部資料から、どの程度まで実証的に自己の仮説を検証できるかを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では理論の精緻化後、事例選択を完了させるとともに、イラク戦争、冬戦争、ベトナム戦争の3事例の資料収集と事例研究に取り組む予定であった。 しかし、上記のように、理論の精緻化の過程で研究計画を変更した。力の非対称性それ自体が強要失敗の原因となっていることを示すためには、対称関係と非対称関係を比較する事例研究を加えることが望ましいためである。冷戦期アメリカの外交政策を軸に、非対称関係下の強要の事例であるベトナム戦争を、対称関係下の強要の事例としてのキューバ危機と比較する可能性と、冷戦末期からのイラクの外交政策を軸に、イラク戦争時のイラク・アメリカ関係(非対称関係)を、90年代のイラク・イラン関係(対称関係)と比較する可能性を、現在、検討中である。 このような研究計画の修正に加え、イラク戦争とアフガニスタン戦争の資料が保管されている米国国防大学・紛争記録調査センターが、27年の夏までに閉鎖されてしまう可能性があったために、計画を前倒しし、先に事例の資料収集とその分析に取り組んだ。結果的に、実際に取り組んだ事例は、イラク戦争、冬戦争とアフガニスタン戦争、コソボ紛争の4事例に増えた。 紛争記録調査センターにおいては、当初の予定通り、イラク戦争・アフガニスタン戦争についての資料を収集するとともに、間接的な検証に用いる事例として、イラク・イラン関係を扱えるか否かを検討するため、サダム政権のイラン認識にかかわる資料も加えて収集した。 当初の予定通り、事例選択を完了することはできなかったが、その分、個々の事例についての資料収集とその分析を進めることができたために、「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に資料を収集した事例について、その分析を完成させるとともに、直接的検証のための最後の事例としてベトナム戦争の資料収集・分析を開始する。加えて、上記の通り、イラク・アメリカ関係(イラク戦争)とイラク・イラン関係、アメリカ・ベトナム関係(ベトナム戦争)とアメリカ・ソ連関係(キューバ危機)の比較による間接的検証の可能性を見極める。その上で論文作成作業に入りたい。
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