2014 Fiscal Year Annual Research Report
光周波数コムを利用した多原子分子の超高分解能分光の研究
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14J08823
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
西山 明子 福岡大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 高分解能分子分光 / 光周波数コム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、光周波数コムを用いた高分解能分子分光システムを開発し、ナフタレン分子の高分解能分光計測に適用した。 開発した分光システムは、周波数掃引色素レーザーを光源としたドップラーフリー2光子吸収分光システムと、光周波数コムを用いた周波数計測システムを組み合わせたものである。周波数計測システムでは、音響光学変調器によって色素レーザー光を周波数シフトさせることで、色素レーザー光と光周波数コム出力とのビート信号を測定可能な周波数に一定に保ち、ビート周波数の連続測定を行った。これによって、GPS衛星搭載のセシウム原子時計に安定化した光周波数コムの精度で、周波数掃引色素レーザーの周波数を測定することが可能になった。さらに、色素レーザーの1回の掃引で得られたスペクトルの精度を、得られたビート周波数の分布から見積もることに成功した。この方法で見積もられた測定の精度は数10 kHzである。従来の分光計測の周波数目盛の精度が数MHzであったのと比較して、本研究は2桁高い測定精度を実現した。また、ドップラーフリー2光子吸収分光システムでは、完全にドップラーフリーの測定を行うことができ、狭線幅色素レーザーの線幅(約100 kHz)の分解能が得られる。色素レーザーを連続的に掃引してスペクトルを測定し、同時に光周波数コムによる周波数測定を行うことで、スペクトルの周波数を高精度に決定した。本研究では、これまででもっとも高い精度と分解能でナフタレン分子スペクトルを測定することに成功した。 測定では、数千本のナフタレン分子の電子振動回転スペクトルが得られた。得られたスペクトルの一部から、励起状態の分子定数を高精度に決定し、ナフタレン分子の励起状態間に生じている相互作用を明らかにした。今後、得られたスペクトルの解析を進めることで、より正確な分子の構造と励起状態のダイナミクスが明らかになる見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的は、光周波数コムを利用した新しい超高分解能分光システム開発し、光周波数コムが持つ究極の周波数精度で、多原子分子の超高分解能スペクトルを測定することであった。当初の予定通り、光周波数コムを用いた高分解能分光システムを完成させ、ナフタレン分子の高分解能分光計測に適用した。本研究で開発したシステムによって、これまででもっとも高い精度と分解能でナフタレン分子の電子振動回転スペクトルを得ることに成功した。 また、多原子分子の電子励起状態のダイナミクスを明らかにすることも当初の研究目的であった。これまでに得られたスペクトルの一部の解析結果から、ナフタレン分子の電子励起状態間に生じている相互作用を明らかにした。今後、得られたスペクトルの解析を進めることで、より正確な分子の構造と励起状態のダイナミクスが明らかになる見込みである。 これらのことから、本研究がおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、得られたナフタレン分子スペクトルのうち、帰属ができていない数千本のスペクトルの帰属を行う。帰属されたスペクトルの遷移周波数から、より正確な分子の構造と励起状態間の相互作用の詳細が明らかになる見込みである。また、これまでに測定したナフタレン分子の遷移は、第1励起状態の1つの振動バンドのみであったが、今後、他の遷移の測定と解析を行うことで、ナフタレン分子の電子励起状態の多様なダイナミクスを明らかにしていく。 1年目の研究で開発した分光システムは、これまででもっとも高い分解能と精度でナフタレン分子スペクトルを測定することに成功したが、光周波数コムとして用いたモード同期チタンサファイアレーザーの長時間運転が難しく、長時間かけて広波長範囲の測定を行うことが難しかった。そのため測定できるスペクトルの範囲には、現実的には限界があった。そこで今後の研究では、安定なファイバー型の光周波数コムを用いた高分解能分光システムの開発に取り組む。ファイバーコムを分光光源とした分光システムを開発することで、広波長範囲にわたる高精度・高分解能なスペクトルを短時間に測定することを可能にする。さらに、得られた高分解能分子スペクトルから、分子の励起状態のダイナミクスについての研究を行う。
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Research Products
(8 results)