2014 Fiscal Year Annual Research Report
アンドレ・ジッドのセクシュアリティ観--オスカー・ワイルドとの思想交流に着目して
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14J09012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西村 晶絵 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | アンドレ・ジッド / オスカー・ワイルド / セクシュアリティ / フランス文学 / 退廃論 |
Outline of Annual Research Achievements |
アンドレ・ジッドが創作活動を開始し、オスカー・ワイルドと近しくなった19世紀末においては、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国において、医学が存在感を増していたが、この学問領域が当時の社会のみならず、芸術分野においても大きな影響力を持っていたという歴史的事実を確認した上で、ワイルドとジッドの芸術作品やセクシュアリティ観と、この科学にはいかなる関係を見出し得るか把握すべく努めた。 メンデルによる遺伝の法則や、ダーウィンの進化論が登場した19世紀後半は、自然科学が進歩し隆盛を極めたが、その流れにおいてユダヤ人医学者ノルダウの『退廃論』に代表されるように、「世紀末」の芸術を「科学的」に説明しようとする動きもみられた。それに対し、ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』や、ジッドの『アンドレ・ヴァルテールの手記』に見られるように、美への耽溺や理想の世界の追求を描くことによって、「世紀末」芸術家たちは、科学に基づく「正常と異常」、「善と悪」といった二項対立的な物事の見方や、科学万能主義的な風潮に警鐘を鳴らそうとしたのである。 ところが、実際のところ、ワイルドやジッドは、セクシュアリティに関する事柄について、医学言説と異なる見解を示し得ていたわけではない。19世紀のヨーロッパでは、性についてもまた「科学的」に解明しようとする性科学(sexologie)が起こる。そして、この性科学は、ワイルドの『サロメ』や、先に挙げたジッドの『ヴァルテールの手記』といった作品にもその反映を読み取ることができる。科学万能主義的な現実世界と距離を置き、芸術において理想的な世界を追い求めようとしながらも、性的倒錯や自慰行為といった性的な事柄に関しては、当時の「医学」に基づいた見方をし、それを作品においても反映させている、19世紀末のワイルドとジッドのアンビバレントな態度を本研究は明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「本年度の研究実施計画」の内容に沿って研究を進めることができたため。また、それと並行して、フランス国立図書館において今後の作業に必要な資料の収集にも努めたが、この作業により、今後の研究を円滑に、かつ発展的に遂行することが可能となると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
医学という主題に着目しながら、19世紀末のジッドとワイルドのセクシュアリティ観を検討した昨年度の研究成果を基に、今年度は20世紀に入ってからのジッドのセクシュアリティ観について、とりわけ同性愛観と「女性」観という切り口から分析する。ワイルドの死後、ジッドがこれらに関して、どのような見解を示すようになり、そのいかなる点にワイルドとの差異や、ジッドの独自性を見出し得るか解明することで、ジッドにおけるセクシュアリティ観についての既存の理解を刷新するような研究成果をあげることを目指す。その中で得られた研究成果の公表も、積極的に行う予定である。 研究を遂行するにあたり、日本国内においては入手困難な資料が存在するため、必要に応じてパリのフランス国立図書館やロンドンのブリティッシュ・ライブラリーなどで資料収集を行い、研究をより洗練されたものにすべく努める。
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Research Products
(1 results)