2014 Fiscal Year Annual Research Report
近代における義太夫節の受容ー明治・大正期の素人義太夫を中心に
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14J09316
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川下 俊文 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 国文学 / 伝統芸能 / 浄瑠璃 / 日露戦争 / 素人義太夫 / 近代 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究実績の一つは、日露戦争を題材とする新作浄瑠璃「薫梅忠義魁」に関する作品研究である。同作は日露戦争による戦死者の遺族宅を舞台とし、戦争中から数年間にわたって素人義太夫たちの間で流行した作品である。同作の題材となった『大阪朝日新聞』の記事との詳細な比較を行い、また同作と同様に日露戦争を題材として淡路人形浄瑠璃で上演された『日露戦争記』と題する一連の床本群をも閲覧した。これらの調査により、「薫梅忠義魁」が新聞報道に基づきながらも、別の出征者の逸話を流用するなどして、古典的な時代物浄瑠璃の作品構造に則るように事実を再構成し、一介の兵士の戦死を忠義のための犠牲として美談化していることを確認した。同作の題材となった戦死者が士族の出身であることを強調し、武士の討死になぞらえて脚色している点が同作の特徴だが、このように士族出身の出征者を主人公とし、彼らが武士としての自己認識のもとに、進んで自身または家族を犠牲にするという展開は、淡路人形浄瑠璃の『日露戦争記』にも複数箇所でみられることも判明した。 一方、明治中期から昭和初期にかけて活動した素人義太夫・杉山其日庵の事跡につき、数年にわたり調査を続けている。杉山が支援していた女義太夫・竹本素女の興行では、杉山が執筆した浄瑠璃作品がたびたび実演されているが、その作品の一つで、徳島市内にある大滝山建治寺の住持・貞阿上人の事跡を題材とする「建治寺御法の大滝」の成立事情につき、本年度は調査を行った。結果、貞阿上人については地元・徳島の素人義太夫によって先行作品「建治山御法の花」が制作されており、素女の実兄が四国遍路の際にその本を入手して杉山にもたらし、杉山が改作して素女に与えたものであることが判明した。その縁で建治寺には素女が寄進した石灯籠が残されており、素人義太夫による女義太夫への支援の一端を今に伝える痕跡であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は明治・大正期の素人義太夫の活動について、その実態を解明することを目的としている。平成26年度は、素人義太夫の間で流行した作品と、素人義太夫によって制作された作品という、二つの異なる特徴をもつ新作浄瑠璃について研究を行った。これにより、素人義太夫の間で作品が流布していく過程や、素人義太夫が玄人の芸人である女義太夫に対して行った支援の一端を解明することができた。これらの成果は本研究課題の目的に合致したものであり、順調な進展を遂げているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の遂行のためには、新聞紙上や番付類などに記録された、地方ごと・師匠ごとの素人義太夫の顔ぶれや構成を具体的に検討することが、今後必要となる。特に、『大阪毎日新聞』を嚆矢としていくつかの新聞で行われた「素人義太夫人気投票」の調査を行いたいと考えている。また、大阪の素人義太夫たちによる同好雑誌『浪花名物/浄瑠璃雑誌』の調査を継続し、新聞・雑誌という近代の新しい活字メディアが、伝統芸能に及ぼした影響力についても考察したい。
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Research Products
(3 results)