2015 Fiscal Year Annual Research Report
睡眠時リハーサルによる手続き学習定着の神経機構:鳴禽類の歌行動をモデルとした研究
Project/Area Number |
14J09362
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橘 亮輔 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 発声学習 / 実時間信号処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
睡眠時の脳内リハーサルが学習の定着に貢献する神経メカニズムを明らかにするために、鳴禽の歌学習を対象として、睡眠時の神経活動の操作がそのような影響を及ぼすかを調べている。人間を含めた様々な動物において、学習中と同じ神経活動パターンが睡眠中にもしばしば観測される。この睡眠時の神経活動を睡眠時リハーサル(あるいはリプレイ)といい、学習の定着に貢献すると考えられている。歌を学習する鳥である鳴禽類でも、歌を制御する神経核に置いて睡眠時リハーサルが観測される。彼らの歌は様々な音要素(シラブル)で構成されており、睡眠時リハーサルの各箇所は各シラブルと対応している。そこで本研究では、睡眠時の神経活動にシラブル特異的に介入することで、歌の学習の定着における睡眠時リハーサルの寄与を調べる。 前年度の研究成果に基づいて、歌の時間構造の変動パターンについて論文を著した(Tachibana et al., 2015)。また、成鳥における歌の時間制御についての学習速度は元来のバラツキの大きさと関連があること、若鳥においては可塑性が成鳥に比して非常に大きいことを見つけたため、これらについて投稿準備中である。さらに、鳴禽の歌学習とその脳内回路についての解説記事を発表した(橘・岡ノ谷, 2015)。 また、10月1日よりスイス連邦工科大学(ETH Zurich)のInstitute of Neuroinformaticsに滞在し、Richard Hahnloser教授との共同研究を開始した。神経活動の記録とそれに対する信号処理との高速な連携を可能にする仕組みを構築することができた。これにより、多点電極からの信号を効率よく信号処理する体制が整った。なお、この滞在はJSPSとETH Zurichの共同による「日本スイス若手研究者交流事業」に採択され、3月末まで滞在費の支援を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続いて学習行動の実験についてデータ解析をすすめた。結果、若い個体で観測されていた高い学習能力が、成鳥とともに減少することを同じ個体内で示すことができた。これは学習の神経メカニズムを検討する上で重要な知見である。行動実験については期待以上に進展したが、一方で神経活動操作実験については、神経活動を記録しつつ実時間で信号処理をする実験系の構築に想定以上に困難が伴うことが分かった。そこで、10月1日よりスイス連邦工科大学(ETH Zurich)に滞在して、Richard Hahnloser教授との共同研究を開始した。これにより懸案であった神経活動記録と信号処理を上手く橋渡しする仕組みの開発が大幅に進展した。また、過去に滞在先研究室で取得された多点記録のデータを譲り受け、これについて改めて神経活動から特定シラブルを検出するアルゴリズムを検証し、改良を進めた。一方で、多点電極の記録系の検証の為、麻酔下での歌関連神経核の神経活動記録をおこなった。さらに、韓国脳科学院(KBRI)の小島哲主任研究員との共同研究を開始し、神経活動の薬理学的操作に関連する実験の準備を進めた。本年度中に成鳥の歌の時間的特徴の解析について原著論文1報を出版した。また、鳥の発声学習について解説記事を執筆した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(H28年度)もスイス連邦工科大学のInstitute of Neuroinformaticsに滞在する。この滞在は2月末までを予定している。滞在中おこなう実験は本来の計画に沿うものである。すなわち、鳴禽が歌を学習する最中の神経活動の多点記録および情報量解析、睡眠中の自発活動の実時間検出およびそれに対する外乱刺激の影響についての実験をおこなう。前者については、学習に関与する神経核から歌行動中に多点電極により神経活動を記録し、学習の進展に伴う変化があるかどうかを多変量解析および情報量解析により調べる。後者については、電気刺激だけでなく、より精密な刺激が可能な光遺伝学を用いた手法を検討する。滞在先研究室では多点電極の記録系の開発を重点的に進めており、また、光遺伝学による光刺激についても検証を始めているため、協同することにより研究のさらなる推進が期待できる。これと同時に、韓国脳科学院(KBRI)の小島哲主任研究員との共同研究を進める。こちらは脳活動の薬理学的な操作によって学習定着の仕組みを調べようというものであり、これも本来の計画に沿うものである。このような国際的な研究協力体制のもと研究計画の完遂を目指す。
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Research Products
(6 results)