2014 Fiscal Year Annual Research Report
フェヌロンにおける自己-17世紀フランスの自己の諸相とその展開
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14J09442
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森元 規裕 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | フェヌロン / 修辞学 / 霊性 / 神学 / 説教 / 自己 |
Outline of Annual Research Achievements |
フェヌロンの自己観を基点として17世紀フランスの自己観の諸相を明らかにするという当初の計画をふまえ、今年度はフェヌロンの著作および先行研究の網羅的な資料収集および読解に専念した。 ナントの勅令廃止後に改宗活動に従事することになるフェヌロンは、実際にプロテスタントを改宗へと導かねばならず「聖なる雄弁」の実践的な理論化を避けられなかった。そこから、プラトンやキケロをはじめとした観念と言葉の一致を理想とする古代の修辞学に加えて、当代の社会で流行していた対話術を善用しながら実効的な説教を呈示し、さらには対話形式の選択によって著者としての「自己」を隠しながら雄弁を実践する、という彼独自の雄弁論の歴史的意義を考察した。 自らの「雄弁」という利害関心をはなれることを前提として、聞き手にそくして有効な手段を採用する説教の理論は、ギュイヨン夫人との邂逅以降の霊性書簡(とりわけマントノン夫人宛書簡)において「自己放棄」として変奏されていく。フェヌロンの霊性の独創性は、誰もが容易に感じることのできる「自己」を最大の問題とし、筆舌に尽くし難い内的生活を、平常の「会話」をするようにして自己のうちの聖霊との親しい関係を結ぶ、という形で平明に描き出したことに存することが明らかになった。 この霊性書簡には「自己」に関するもう一つの重要な独自性が見いだされる。それは自己放棄をしつつも人間に残された自由意志の強調である。晩年の神学的著作、『ジャンセニウス論』では、ジャンセニスムの「二つの快」の恩寵理論を非意志的なものとして俎上にあげ、当時の権威であったトミスムが主張する「物理的初動」の恩寵理論との区別を図ることが最大の焦点であったということが明らかになり、フェヌロンが、このような必要性からモリナ主義ないし相応主義にきわめて近い神学的立場を表明し、初期から晩年までこの立場を基礎としていたという理解に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、初年度はフェヌロンの著作の読解に専念し、彼の自己観を包括的に考える際に無視することのできない軸として、修辞学(文学)、霊性(神秘神学)、神学(哲学)の三点を時系列にそって検証した。彼の霊性や神学が、とりわけその表現の仕方において修辞学に多くを負っており、フェヌロンが生涯説教家であり続けたことの重要性をあらためて認識できたことは今後の研究の土台となる。残念ながら成果の発表にこそいたらなかったものの、来年度以降、フェヌロンの自己観から17世紀フランスの自己観の諸相へと射程を広げていくための具体的な素地を作ったという点で順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究の成果として、フェヌロンの自己観を規定する修辞学、霊性、神学という上記の三点を、相互の関係を考慮に入れつつ、来年度以降にそれぞれ論文または口頭発表にて発表することを予定している。 またフェヌロンの自己観をより正確に理解するために不可欠な作業として、17世紀フランスの自己観の諸相と照らし合わせていく。来年度はフェヌロンとの直接関係のある論者から出発し、修辞学については、フェヌロンが雄弁術を理論化した時期に「小さな公会議」のメンバーとして密接な関係にあったボシュエ、フルリ、ラ・ブリュイエールを、霊性については、17世紀末に霊性の権威として欠かせなかったフランソワ・ド・サルと、フェヌロンに霊性の議論の基盤を提供したギュイヨン夫人を、神学については、フェヌロンが直接論じたマルブランシュと、恩寵論争に限定してトミスムとジャンセニスム(とりわけアルノー、パスカル、ニコル、ケネル)を読解し、上記の成果発表に反映させることを予定している。
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