2015 Fiscal Year Annual Research Report
バリスティックグラフェンpn接合における量子輸送現象
Project/Area Number |
14J09475
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森川 生 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | グラフェン / バリスティック / イメージング / SGM |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフェン中の電子の軌跡をより局所的に制御することを試みた。具体的には、町田研究室で作製した高移動度グラフェン試料を英ケンブリッジ大学に持参し、先方が有するScanning Gate Microscopy(SGM)と呼ばれる局所プロービング測定技術を利用して、電子の軌跡をナノスケールのtipを用いて制御することを試みた。 この際、電子フォーカシング効果と呼ばれる量子輸送現象を用いた。具体的には、面直に磁場を加えることで、サイクロトロン運動した電子がinjectorからcollectorに飛び込む瞬間に、非局所電圧が生じるという現象である。 この非局所電圧がピークを取る状況で磁場を固定し、電圧を与えたtipを試料の表面で走査すると非局所電圧抑制領域が円弧上に見られた。キャリアのサイクロトロン運動の可視化にグラフェンで初めて成功した実験結果と言える。原理としては、もともとcollectorに飛び込んでいた電子が、tipが及ぼす電界によって散乱され、フォーカシング効果が抑制され非局所電圧が減少した、と説明することができる。一方で、ピーク時よりも少し大きな磁場に固定し、同様の実験を行うと、非局所電圧が増大している領域が円弧上に見らた。このことは、もともとcollectorに飛び込むことができなかった電子が、tipによって曲げられてcollectorに飛び込むことができた、と解釈することができる。 以上の結果はサイクロトロン運動の可視化という意義があるだけでなく、ナノスケールのtipが作る電界によって電子の軌跡を局所的・能動的に制御できることを示唆したものであり、”Dirac Fermion Optics”の実現に向けてSGMが重要なツールとなることを意味した重要な成果である。本研究成果はApplied Physics Letters誌に昨年度掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、バリスティックなキャリアをグローバルな伝導現象として観測したり制御したりすることを目指していた。しかし、英ケンブリッジ大学との共同研究によって、バリスティックなキャリアをローカルに制御することが可能であることを示し、バリスティック伝導制御という研究領域に、当初の計画を超えた新たな制御方法の可能性を示すことに成功したから。この制御方法を利用することで、ナノスケールの領域において、電子透過のスイッチングなど新規物性・機能を提案することが可能になると言え、翌年度取り組むべき課題も明確となった。
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Strategy for Future Research Activity |
バリスティック伝導を制御することでより能動的に機能を持たせることを試みたい。例えば、より複雑なプリズムのような構造のnpn接合を作ることで、電子の屈折や全反射を利用し、電子の透過率のOFF状態の実現を目指したい。既に初期的なデータを得ることに成功しており、論文の執筆や国際会議への口頭発表採択などを済ませた。今後は、より現実の応用ニーズに適した特性を有するデバイスの作製に取り組みたい。また、今年度明らかにしたローカルなバリスティックキャリア制御の可能性をより広げるべく、消費電力の少なさから注目を集めているバレー流伝導の可視化などにも取り組みたい。
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Research Products
(11 results)