2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J09483
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飯塚 理恵 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 徳認識論 / 倫理学 / 認識論 / 性格特性 / 状況主義 / 徳倫理 / 哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、博士課程の一年目の学生として授業や研究者間の勉強会にも積極的に参加しながら、博士論文の基礎となる研究成果を築いた。具体的には、国内外の学会や研究会で積極的に口頭発表を行い、本年度以降成果を論文として発表するための準備を行った。 まず、5月に行われた応用哲学会では、思考実験の環境内の主体が有徳になれないという主張を擁護することを目指した。7月に京都で行われたKyoto Moral Psychology Workshopでは、賞罰に値する(Desert)という概念について考察し、適切な賞罰判断には利益受給者の視点も入れることができると主張した。10月の北大応用倫理学会では、道徳的善と知的善の関係性について考察した。知的善に比べて、道徳的な善とは何かについては論争があるが、徳の理論としての統一性を保つためにアリストテレス的伝統を安易に放棄すべきでないと主張した。10月のBESETO国際会議、12月のVirtue Epistemology workshopでは、知識の価値についての発表を行った。知識の価値が何かという問題は近年認識論で活発に議論されている。幾人かの徳認識論者はこの問いに究極的価値という概念を用いて答えたがこの妥当性について議論した。3月にはNY市立大学で、性格が存在しないと主張する状況主義者に対する徳倫理からの応答を行った。そこでは、徳倫理学者は動機についての心理学的研究を積極的に取り入れるべきだと述べた。 12月にはアメリカのLoyola Marymount大学から責任主義徳認識論を代表する研究者Jason Baehr教授が来日し、私の所属する大学で連続講演会が行われた。私は講演会で積極的に質問、議論を行った。 このように、昨年度は、一貫して認識と道徳を統一する徳の理論の構築というプロジェクトに従事し、三年間の研究の基盤となる準備的発表を精力的に行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、応用哲学会、BESETO国際会議、北大応用倫理学会といった国内・国際学会等で精力的に発表を行った。また、Kyoto Moral Psychology Workshop、Virtue Epistemology workshop, CUNY Graduate Center Cognitive Science Talksといった様々な研究会での発表も積極的に行った。自らの研究を多くの専門家達に聞いてもらうことで、本年度以降成果を論文として発表するための準備を行った。海外のサマースクールにも参加し、積極的に専門家との交流を図った。更に、自身が代表を努める研究会で徳認識論者をはじめとするさまざまな研究者の発表をオーガナイズし、自身の研究である徳認識論をより大きな哲学的図式の中に位置づけて理解する努力もしてきた。 また、12月には徳認識論の専門家であるJason Baehr教授が来日し、連続講演が開催され、私はそこで国内外の専門家達と活発な議論を集中的に行った。その際、責任主義と信頼性主義が益々連続的なものになっていくという点や、責任主義徳認識論が教育と深いつながりを持ちその関係性を明らかにしていくことが急務である点など、多くの点に関して研究の目標を共有し合った。 これらの発表は、徳認識論と新悪霊問題の関係性に関する考慮、道徳的な功績(desert)判断の基盤に関する考慮、認識的善と道徳的善の関係性についての考察、知識の価値の問題への回答、徳の理論と状況主義の論争への回答といったものであり、いずれも認識と道徳を統一する徳の理論の構築という私の研究課題の一端を担うものである。これらの発表や議論の成果は来年度以降に学術論文として結実することが期待される。このように昨年度は博士論文執筆の準備として期待通りの研究が進展したと言えるだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度複数回にわたって発表してきた知識の価値と徳認識論の関係についての考察と、状況主義に対する徳の理論の応答に関する論文を完成させたい。 まず、知識の価値の問題については、究極的価値に訴えて知識の価値に答える立場の問題点を挙げたい。特に、彼らは端的な能力の成功をより一般的な「達成」と同一視しているが、このアナロジーが不適切であることを示していきたい。我々は確かに達成を何らかの価値あるものと見なすが、この時、我々が評価しているのは能力の成功ではなく、行為の持つ別の側面(行為者性、意図性など)ではないのかと問うていきたい。 次に、状況主義に対する応答として、徳倫理側は長らく防戦に徹して来たが、実際の動機についての心理学的研究(特に内発的動機付け・外発的動機付け)を検討することで、徳倫理的な枠組みが我々の行動を理解する際に実際に説明力や予測力を持っているという積極的な主張を行っていきたい。特に、我々の行為を向上させていく、より良いものにしていくという観点から、徳倫理が優れた理論であると主張していく。 また、博士論文の準備として、新悪霊問題(悪霊にだまされているような劣悪な環境で人が有徳になれるかという問題)の形而上学的枠組みの問題を明らかにしたい。そのためには、人の能力がどれだけ環境相対的であるのかという点をよく考察しなければならない。現実離れした哲学的思考実験のケースと、社会状況などの要因によって徳の獲得が困難なケースに原理的な線引きを行うことが目標である。 具体的には、応用哲学会、科学基礎論学会での発表、また、ワークショップにおける発表が複数決定している。本年度は、引き続き積極的に発表をしながらも、研究活動の中心を論文の執筆に移していきたい。
|
Research Products
(4 results)