2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J09483
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飯塚 理恵 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 徳認識論 / 徳倫理 / 徳 / 認識論 / 哲学 / 倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、27年度の前半に国内外の学会やWSで複数の発表を行ってきた。4月の応用哲学会では、知識の価値を巡る問題(メノン問題)について、知識の価値は能力による達成の持つ価値であるという従来の説を退け、正当化が持つレジリエンスに訴えて知識の価値を説明する立場を指示し、善い性格特性を発揮して知識を獲得することがレジリエンスの高い正当化を生み出す一つの方法であると主張した。
6月には、科学基礎論学会と台湾のWSで発表を行い、徳の存在可能性を巡る問題に取り組んだ。状況主義者達は、社会心理学的知見に訴え、間状況一貫的な性格特性など存在しないと徳倫理を批判してきたが、申請者は他の心理学理論(自己決定理論)の知見を見ていくことで、徳認識論が支持される可能性を示した。また、徳の獲得が困難であるという事実を受け入れることで、徳理論家は認識的・道徳的本性への積極的な介入を真剣に検討しなければならず、この問題が社会全体で大きな議論を巻き起こしているエンハンスメント問題と密接な関わりを持つということを明らかにした。
また、申請者は27年度の後半に、より高度な徳認識論の知識を得る為に認識論研究が盛んであるイギリスのエジンバラ大学に研究渡航を行った。エジンバラ大学では徳認識論の研究会に参加し、認識論研究者達と意見を交わしながら、研究を遂行した。また、申請者は哲学・倫理学の初学者に向けた本の、徳倫理・徳認識論に関する項の執筆を行った。その際、徳倫理・徳認識論の広範なサーヴェイを行い、徳認識論の歴史的位置づけの理解が進んだ。このように27年度は、国内外の発表や海外への研究渡航、論文の執筆を精力的に行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
6月に行った科学基礎論学会と台湾のWSで発表を元に、徳の存在可能性を巡る問題に関する論文の執筆に取り組んでいる。状況主義者達は、社会心理学的知見に訴え、間状況一貫性を持つ性格特性など存在しないと徳倫理学を批判してきたが、申請者は他の心理学理論(自己決定理論)の知見を見ていくことで、徳認識論が支持される可能性を示した。徳理論は状況主義論者に対して積極的な議論を与えてこなかったので、このように心理学的知見に訴え徳の存在を擁護することで、徳の理論により堅固な科学的基盤を与えることができたと言える。
また、徳の獲得が困難であるという事実を受け入れることで、徳理論家は認識的・道徳的本性への積極的な介入を真剣に検討しなければならない。その際の介入とは、例えば、治療を超えて我々の能力を高めるエンハンスメントや、認識過程を環境内の要素にアウトソースする認識の拡張である。申請者の課題は認識と道徳を統一する徳の理論の構築であるが、徳の獲得の際にエンハンスメント技術や認識の拡張を受け入れるべきなのか、もし受け入れるならそれはどの程度なのかといった問題は、徳倫理、徳認識論に共通の課題であり、近年の科学的知見に基づく現実に即した徳の理論を考えていくためには、この問題への取り組みは必要不可欠である。それゆえ、27年度後半は、拡張された認識に関する論文やエンハンスメント論争についてのサーヴェイを行った。これらが、徳倫理・徳認識論とどのような関係にあるのかを次年度で探究していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
従来の徳認識論は我々の認識的な自律性(知識を得る際に他人に頼らず、自らの信念の正当化を自ら獲得すること)の拡張を理想として掲げている。しかし、このような理想は状況主義者の批判を受け、適宜改定されなければならないように思われる。状況主義論争を通じて、徳理論家は徳の獲得が困難であるという事実を受け入れるに至った。そこで、徳理論家は認識的・道徳的本性への積極的な介入を真剣に検討しなければならないだろう。その際の介入とは、例えば、治療を超えて我々の能力を高めるエンハンスメントや、認識過程を環境内の要素にアウトソースする認識の拡張である。申請者の課題は認識と道徳を統一する徳の理論の構築であるが、徳の獲得の際にエンハンスメント技術や認識の拡張をどれだけ受け入れるべきなのかは、徳倫理、徳認識論に共通の課題であり、近年の科学的知見に基づく、現実に即した徳の理論を考えるためには、この問題への取り組みは必要不可欠である。
それゆえ、認識と道徳を統一する徳の理論の構築という課題において、エンハンスメントや拡張された認識を徳倫理・徳認識論にどれだけ組み込むべきなのかという、従来の研究課題では気づかれていなかった問題を今後、追加して探究していきたい。もしエンハンスメントや拡張された認識が徳の観点から否定されるならば、それはどのような徳倫理・徳認識論的理由からなのかという点を検討する。このような変更は、より洗練された徳の理論の追求に繋がるため、申請者の課題の遂行において有益であるだろう。
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Research Products
(3 results)