2014 Fiscal Year Annual Research Report
明治期娯楽読物の体系的研究--押川春浪作品の生成と受容の様相を端緒として--
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14J09614
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
武田 悠希 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 日本文学 / 押川春浪 / 明治文学 / メディア研究 / 日本近代文学 / 娯楽読物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、明治期娯楽読物を体系的に把握するために、同時代の文学・文化状況との比較から、押川春浪作品の生成・受容の様相を明らかにすることである。平成26年度の研究実績は主に次の三点にまとめることができる。1、春浪の初著作『海底軍艦』の主要人物である日出雄少年について、バーネット原作・若松賤子訳『小公子』や同時期の少年向け翻訳冒険小説の主人公イメージが投影されていることを分析した。そうした要素が読者の獲得を促す効果として取り入れられた可能性が見出せたことは、春浪の初著作の冒険小説及び児童向け読物の系譜上での位置づけを把握するうえで重要である。2、春浪が関わった雑誌のうち、『日露戦争写真画報』と『写真画報』の調査と分析を行い、春浪が『日露戦争写真画報』の時代から家庭向けの雑誌としてそれらを作っていたことを明らかにした。この点については、来年度に残りの『冒険世界』及び『武侠世界』の調査と分析を行ったうえで、成果としてまとめ公表する予定である(この調査過程で得た春浪著作に関する成果の一部は、すでに平成26年『日本近代文学』91集掲載の論文に公表している)。3、国内調査(国文学研究資料館、日本近代文学館、仙台文学館ほか)により、押川春浪著作物の目録作成と、読者評・読者層に関するデータ収集を進めた。その過程で、日本近代文学館に押川春浪の原稿が所蔵されていることが判明したため、その調査も実施した。創作過程などがわかったほか、未確認著作の存在など今後の調査の手がかりを得た。 以上、平成26年度の研究状況は、本研究課題を達成するために基盤となる調査を進め重要な手がかりを得るものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、調査の過程で判明したことなどから、当初の研究計画と予定が変わった点もあるが、本研究目的を達成するために設定した課題については順調に進んだと考える。 とりわけ重要な点としては、本研究課題を達成するための基盤となる調査の進展があげられる。特に、春浪が関わった雑誌や原稿調査などは、押川春浪作品の全容を把握し、さらにその生成・受容の様相を明らかにするという目的にとって重要な手がかりとなるものである。 一方、当初平成26年度の計画の一つであった講談速記本との関連調査については、雑誌調査や当初予定していなかった春浪の原稿の調査を優先させたため、平成27年度に持ち越すこととなった。これについては、平成26年度に行った著作調査や雑誌調査の成果を手がかりとすることで、平成27年度に考察が進むことと確信している。さらに、平成26年度には本研究の課題の一つである典拠の考察が当初の計画とは異なり、春浪の初著作で代表作とされている『海底軍艦』に焦点をあてて、同時代作品との比較から典拠の調査と分析を進めることとなった。これは作品分析の過程で春浪の代表作とされる『海底軍艦』の位置づけを明らかにすることが、その後の考察にとって重要と判断したからであるが、そのために取り扱えなかった近世、幕末、明治期初期作品との影響関係についての検討も、講談速記本調査の過程で明治期にも享受された草双紙との題材の重なりなどを検討することによって、考察を進めることを平成27年度に予定している。 以上の通り、調査の順番などに変更が生じたものの、平成26年度は本研究課題を遂行するにあたって基盤となる調査と資料収集が進展することとなった。また、論文やワークショップでの発表という形で成果の一部を公表できたことも含めて、現在までの達成度をおおむね順調に進展しているものとした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、本研究課題を遂行するにあたっては、同時代の文学・文化状況との比較を行うという、視点と方法を導入する。具体的には、同時代の文学・文化影響を総合的に捉える観点から、次の四点を課題としている。(1) 典拠の検討から春浪作品の位置づけと独自の視点を浮き彫りにする。(2) 春浪作品の生成・受容過程に講談速記本の隆盛があったことを比較により明らかにする。(3)春浪が関わった雑誌の特徴と受容状況を検討し把握する。(4) 押川春浪の著作と読者評の網羅的な調査により、押川春浪作品の全容を把握する。特に平成27年度はその一環として、中国と韓国へ春浪作品の受容関係を把握するための文献調査に赴く。 研究計画の変更点については、上記の通り、当初平成26年度の計画の一つであった講談速記本との関連調査が、他の課題及び当初予定していなかった春浪の原稿の調査を優先させたため、平成27年度に持ち越すこととなった点がある。これについては、平成26年度に行った著作調査や雑誌調査の成果を手がかりとすることで、平成27年度に考察を進めるものとする。さらに、平成26年度に取り扱えなかった近世、幕末、明治期初期作品との影響関係についての検討も、講談速記本調査の過程で明治期にも享受された草双紙との題材の重なりなどを検討することによって、考察を進めることを予定している。 以上の観点にしたがい、緻密な調査を実施することで着実に成果を出していくことが本研究課題の今後の推進方策である。
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Research Products
(4 results)