2014 Fiscal Year Annual Research Report
クワガタムシ・コガネムシ類における昆虫-菌類の共生関係の解明と保全生物学的応用
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14J09621
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
棚橋 薫彦 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 共生 / クワガタムシ / 酵母 / 菌嚢 |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 昆虫-菌類の共進化を支える垂直伝達メカニズム クワガタムシ科のメス成虫は、腹部末端に共生酵母の伝達器官である「菌嚢」を持つ。2014年度の研究では、菌嚢の組織学的構造を明らかにした。クワガタムシ科の菌嚢は、腹部背板の末端節と産卵管を連結する節間膜が著しく伸長して体内に陥入し、その最奥部の表面に分泌腺が発達した構造になっていた。コクワガタにおいては、菌嚢の内部には樹状の突起が並び、この突起の間隙に黄色の粘液が分泌され、分泌物中に共生酵母が生育していた。他の種類のクワガタムシでは、菌嚢分泌物の色は黒色(ノコギリクワガタ属)、褐色(ヒラタクワガタ類)、灰褐色~赤褐色(ミヤマクワガタ属)、薄黄色(ルリクワガタ属)等様々であり、菌嚢内部の突起の形状もそれぞれ異なっていた。菌嚢内部の微細構造の機能や適応的意義については、2015年度以降の研究で明らかにしていく予定である。 2) クワガタムシの食性と共生菌の対応関係 クワガタムシは材の腐朽タイプに対して明確な選好性を示す。クワガタムシの祖先種は褐色腐朽材食であり、そこから白色腐朽材食の種群が進化したと考えられている。また、一部の種群では白色腐朽材食から腐植土壌食への移行が見られる。本研究では、日本産クワガタムシ科のほぼ全ての属から共生酵母を同定し、幼虫食性と共生酵母の対応を明らかにした。白色腐朽材食のグループにはScheffersomyces属のキシロース発酵性酵母が存在し、褐色腐朽材食のクワガタムシには、同属酵母の祖先的な系統群にあたる酵母が存在した。一方で、腐植土壌食の多くの種からは固有の共生酵母が得られなかった。また、一致部の特殊な生活史を持つクワガタムシには、これらとは全く異なる分類群に属する共生酵母が存在した。これらの結果から、共生酵母の新規獲得や置換がクワガタムシ科の生態形質の進化に密接に関わっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特別研究員PDの初年度にあたり、クワガタムシ類およびコガネムシ類の共生微生物叢、そしてその多様性および共通性について研究に取り組み、当初の研究計画の内容はほぼ達成した。また、本研究と関連する内容について、2014年度には海外査読誌への投稿1件(2015年度に受理)、海外学会発表2件、国内学会発表3件を行った。特に、日本産クワガタムシ類について包括的に、雌成虫尾端に存在して共生酵母を収納する菌嚢の存在および構造を解明し、共生酵母の多様性を記載し、垂直伝播機構を解明した成果は重要であり、現在学術論文に取りまとめ中である。クワガタムシ類幼虫の食性と共生酵母の種類の関係についても興味深い結果が得られており、今後の展開が期待される。希少種コガネムシ類の共生微生物叢の解析も進めており、来年度以降の研究の展開が大いに期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、以下の4つの小課題で構成される。 A-1)昆虫ー菌類の共進化を支える垂直伝達メカニズムの解明:クワガタムシのメス成虫は共生酵母を保持するための菌嚢を持つ。2014年度の研究では、菌嚢の解剖学的構造を解明した。2015年度は、共生酵母の菌嚢への取り込みと垂直伝達に関与する特異的な行動について詳細に調査し、その行動の進化的起源と適応的意義を明らかにする。また、日本産クガタムシ科を代表する4亜科5種の菌嚢から共生酵母を分離し、緑色蛍光タンパクEGFPの組換え体を作成する。このEGFP組換え酵母を宿主クワガタムシに再感染させ、昆虫体内における酵母の感染動態を明らかにする。 A-2) 昆虫の食性と共生菌の対応関係:これまでの研究で、日本産クワガタムシ科の幼虫食性と共生酵母の対応関係が明らかになった。2015年度の研究では、調査の対象種を東南アジアおよびヨーロッパに広げ、少なくとも100種のクワガタムシで共生酵母の解析を行う予定である。 A-3) 昆虫の地理的分布と共生菌の温度耐性:クワガタムシ科は熱帯から亜寒帯まで分布し、また日本国内では低地から亜高山帯まで厚い垂直分布を示すが、多くの種は特定の気候帯や標高帯に生息する。分布を規定する要因としては、昆虫と共生酵母の両方の温度適応が考えられる。2015年の研究では、共生酵母の温度適応とクワガタムシの分布の関連性について調査する。 B)希少種の保全における微生物共生系の応用:ヤンバルテナガコガネは沖縄本島に生息する日本最大の甲虫であり、国内希少野生動植物種に指定されている。幼虫は老木の樹洞に堆積した木質の腐植を食べ、その消化には酵母類をはじめ様々な微生物が関与していると考えられる。2015年の研究では、生息地における本種幼虫の餌腐植と糞を採取し、テナガコガネの共生菌群集を明らかにする。また、有用菌を単離し、これを用いた人工飼料の作成を検討する。
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Research Products
(6 results)