2014 Fiscal Year Annual Research Report
硫黄不定比性新規金属硫化物の探索と硫黄シャトル電池の提案
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14J09637
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 弘明 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 硫黄シャトル電池 / 電気化学的硫黄脱挿入 / チタン硫化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
硫黄シャトル電池の電極反応を指向した金属硫化物の室温での電気化学的硫黄脱挿入反応のための条件を検討し、チタン硫化物TiS2とTiSの間の可逆な硫黄脱挿入に成功した。 電気化学セルの構成や反応条件の最適化により、電解液に多硫化カリウムの炭酸プロピレン溶液を用い-3.0 V(vs. Ag/Ag+)の定電位還元を行うことで、TiS2は硫黄の引き抜きとともに還元されてTiSとなったことをex-situ XRDにより確認した。さらに、還元生成物のTiSに対し定電流酸化を行うことで硫黄の再挿入も可能であり、TiS2中の硫黄が室温で可逆的に脱挿入されることを明らかにした。 TiS2の硫黄の脱離挙動を調べるため、還元反応の電気量を精密に制御することでTiS2の電気化学的還元過程を精密に追跡した。その結果、還元過程においてTiS2とTiSの二相共存状態が存在し、不定比組成のチタン硫化物を経由しないことが明らかとなった。また、TiS2の還元に要した反応電気量から、硫黄脱離反応としては式(1)に示すようにTiS2から硫黄が多硫化物イオンに酸化されながら脱離する反応が示唆された。 TiS2 + 2/x e- → TiS + 1/x Sx2- (x>5) (1) また、同一の電極を用いてTiS2の電気化学的還元・酸化反応を繰り返し行ったところ、少なくとも3回の還元・酸化処理においてTiSへの還元、TiS2への再酸化がそれぞれ確認され、硫黄の脱挿入反応がサイクル性を持つことを明らかにし、TiS2が多硫化物イオンをキャリアとした硫黄シャトル電池の片電極として利用可能であることを実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
金属硫化物の室温での電気化学的硫黄脱挿入反応はこれまでに報告例がなく、まず目的反応を正確にプローブできる測定手法や電気化学セルの構成を確立した。多硫化物イオン電解液を新たに調整した上で、最適な条件を探索することにより、チタン硫化物の硫黄脱挿入反応をプローブすることに成功した。これら初年度の計画通りに順調に進んだ内容と共に、チタン硫化物が硫黄シャトル電池の片電極として利用可能であることも初年度終了の時点で見出し、さらに電気化学的硫黄脱離反応のメカニズムの追跡にも成功した。これらの成果により初年度の計画以上に研究が進んでいる。したがって当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は硫黄シャトル電池の実用化や電気化学的硫黄脱挿入反応の基礎物性への適用に向け研究を行う。具体的には以下の内容に関し研究を進める。 ① TiS2の電気化学的還元において、還元に要した電気量から、TiS2中の硫化物イオンが多硫化物イオンに酸化されながら脱離する反応が示唆されたが、定量的には未だ明らかになっていない。そこで、電気化学反応前後の電極の組成をICP発光分光分析やCHNS分析により調べ、想定する反応が実際に進行しているか調べる。 ② 電気化学的硫黄脱挿入反応のファラデー効率上昇を目指した電気化学セルの更なる改善を行う。具体的には、イオン液体などの新たな電解液の探索や、電極の配置・隔離の工夫を行い、電解液由来の反応を抑える。 ③ チタン硫化物以外の様々な金属硫化物に対し電気化学的硫黄脱挿入を適用し、硫黄シャトル電池の電極として有用な材料を探索する。電極材料としては、これまでに高温条件で硫黄の脱挿入反応が報告されているニッケル硫化物や、硫黄の3p軌道と遷移金属のd軌道が近いバナジウム硫化物などを選び、電気化学測定を行う。 ④ 新規金属硫化物の調製、物性探索を行うために、まず既に不定比化合物の磁気特性が明らかになっている鉄硫化物に対し電気化学的硫黄脱挿入を試み、強磁性といった磁気特性が発現するかどうか調べる。その後、新規金属硫化物を調製し物性探索を行う。
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