2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J09657
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松永 優子 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 人神祭祀 / 霊魂観 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度まで、近世に限らずそれぞれの時代において、前後する時期の人神祭祀・慰霊祭の形態との比較・相互関係の検討に留意しながら、研究を行ってきた。人神祭祀に関連する史料の分析を主な作業とし、祀られる対象者の人物像、祀り手の人物像、対象人物を祀る動機、という三点に注目し、人神祭祀・慰霊祭の各事例の性格を検討した。現在のところ特に近世を中心に検討が進んでいる。平成27年度は、近世を代表する思想家を取り上げ、それぞれの学者の人神祭祀をめぐる立論を考察した。具体的には、新井白石(1657-1725)・本居宣長(1730-1801)・平田篤胤(1776-1843)ら三人の学者の立論の、特に正祠(是非とも祭祀の対象にすべきもの)と淫祠(祭祀すべきでない、取るに足りない対象)に関する議論に注目し、人神祭祀をめぐる言説を、そこから排除される祭祀をも含めて検討することを目指した。新井白石の立論では対象によってある程度明確に祭祀すべきものとそうでないもののレベルが想定されていることが窺えた。本居宣長もまた、祭祀に分限を設定している一方で、宣長が度々批判を加える儒仏老の道も、全ては悪神のしわざによるものであると記しているおり、宣長の立論が正祠/淫祠の構造で捉えることのできない全てを神の働きに包摂するものであると分かった。宣長の後を受けた平田篤胤は、天津神に授かった性質によって、人は誰でも鬼神を敬うのであるとして、貴賎の別なく、人を祀りという行為の主体として位置付けている。このように、新井白石、本居宣長、平田篤胤の立論を正祠・淫祠の観点から検討することで、祭祀の対象、祀り手がともにその分限を超えて開かれていくことがわかった。本研究を、日本宗教学会2015年度学術大会にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
現在のまでに検討してきた対象がまだ限定的であり、今後さらに分析の枠を広げる必要がある。例として、本年度の研究は取り上げることのできなかった儒家神道の学者の立論や、仏教思想との関わりについての検討、淫祠解除に関わった村田清風らに関する分析が挙げられる他、これら近世のあり方と対照させた際に、靖国神社の英霊に代表される近代以降の人神祭祀から抜け落ちている要素に、どのようなものがあるかについての検討がある。来年度以降の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の分析を通して把握した人神祭祀 ・慰霊祭の基本的な特質と構造を踏まえ、その流れの中における人神の性質の変化の変遷、近代を転換期とする信仰のあり方の連続面/非連続面の考察に踏み込んでいく。具体的には、次の二点を検討する。(1)恨みを残す死者の祟りを鎮めるために祀るという原初の人神祭祀のあり方から、どのような経緯で生前の功績を顕彰するために祀るというあり方が派生するか。 (2)近世において既に幅広い層に普及していた人神祭祀は、 幕末~明治の神道政策以降にどのような連続面/非連続面を持つか。 必要に応じて人神祭祀に関係を持つ、近代の思想的テキストも考察の対象とし、考察を深めていきたい。
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Research Products
(1 results)