2014 Fiscal Year Annual Research Report
触覚刺激による聴覚変調を用いたポータブル高臨場感の実現
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14J09714
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
岡崎 龍太 電気通信大学, 情報理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 振動触覚 / 聴覚 / 音楽体験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はポータブル環境において聴覚を触覚刺激提示によって補助・向上させることである.本年度は周波数シフトを用いた触覚刺激による音楽体験の向上,鎖骨への振動提示によるモバイル体感音響装置,振動刺激による物体と手元の距離感知覚に関する研究を行った. 一つ目の研究は,音楽刺激に同期した振動提示を行う際に生じる聴覚と触覚の知覚可能な周波数レンジの隔たりに着目したものである.本研究では音楽視聴時に提示する振動に対して,ピッチシフト処理を援用する手法を提案した.この処理により触覚として知覚が困難な高周波成分をもつ音楽に対して,音楽に同期し,かつ触覚として知覚可能な振動刺激が生成可能である.生成した振動を音楽と合わせて体験した際の主観的な音楽体験評価を行った結果,比較的周波数の高い音を含む音楽に対してピッチシフト処理を行った触覚刺激を提示することで,音楽に対する主観的な評価が有意に向上することが明らかになった. 二つ目の研究は,全身体感音響装置のモバイル化を目的としたものである.本研究では軽量・小型,また着脱の容易な全身触覚提示手法として,ユーザの骨を介して身体の広範囲に振動を提示する手法を提案した.これまでに,鎖骨が最も簡便かつ効率よく振動を体内へ伝達可能であることを検証し,鎖骨への振動提示デバイスを開発した.また提案手法と他の部位に対して振動提示を行い,ユーザが主観的に知覚する振動の「心地よさ」および音楽コンテンツへの影響に関して検証を行った. 三つ目の研究は,VR空間上の対象物との距離感を振動刺激を用いて触覚的に表現することを目的としている.これまでに,把持棒で実物体を打撃する際,接触時に把持棒から掌に伝わる振動の重心位置を人工的に変化させることにより,触覚で知覚する対象物と手元との距離感が変化することが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は触覚刺激によって聴覚の増強をポータブル環境で行うといった本課題の最終目的に対して,3つのアプローチを行った.1つは聴覚と触覚の知覚可能な周波数レンジの大きな隔たりに着目し,音声の周波数を1オクターブあるいは2オクターブ下げて触覚刺激として提示しても,振動が音楽に対して主観的に違和感なく受け入れられ,音楽体験の主観的な評価を向上させる触覚刺激生成手法の提案と評価を行うものである.もう一つは身体の極一部である鎖骨に振動を加え上半身の骨格を媒介として身体広範に振動を提示可能なポータブル型体感音響装置の開発を行うものである.この研究は従来の体感音響装置に共通の問題である装置の大きさ,重さ,拘束性といった問題を解決し,且つ最終目標である触覚による聴覚の増強を異なるアプローチから解決する手法であるといえる.3つ目のプロジェクトはVR空間上の対象物との距離感を振動刺激を用いて触覚的に表現することを目的としている.これまでの心理物理実験により,実物体打撃時に持ち手に伝わる振動の重心位置を人工的に変更することで接触物体との触覚的接触位置を変更可能であること,実際の打撃時に持ち手に伝わる振動の重心位置が確かに変化すること,実際の打撃を伴わない振動提示のみでも振動の重心位置を変更することで主観的な触覚的接触位置が変化することが示唆された.これらの知見は打撃対象とユーザの距離感を触覚で表現可能であることを示唆しており,例えば体感型テニスゲームなどVR物体を打撃した際の距離感表現に適用するなど,単なる聴覚の補助ではなく,触覚を用いた新たな演出の可能性に繋がると考えられる. これら3つのプロジェクトの進捗状況から当初の計画以上の進展をしていると評価できる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は今年度に取り組んだ触聴覚変換手法,ポータブル型体感音響装置に関する評価をまとめる.また触覚による距離感知覚に関してはVR空間を用いた視覚刺激や聴覚刺激と組み合わせた際の評価を行う予定である.さらに最終年度ということからこれまで取り組んだ研究のまとめと論文誌への投稿を行う.その中で必要とされる追加実験を行う予定である.
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Research Products
(8 results)