2014 Fiscal Year Annual Research Report
人の移動と人間の安全保障:難民の再定住と社会統合の人類学的研究
Project/Area Number |
14J09784
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 純子 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 人の移動 / 人間の安全保障 / 難民 / 再定住 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題である「人の移動と人間の安全保障:難民の再定住と社会統合の人類学的研究」を中心に、本年度は人の移動の意思決定過程について、タイに滞留するミャンマー難民の再定住を具体例として取り上げ、考察を行った。難民や国内避難民、経済移民など自らの意志ではなく、強制的な移動を強いられることが多い。取り分け、難民状況に長年追いやられている人々は、身の安全を保障し、庇護してくれる国があればどこにでも希望を出すように思われる。予想外の事態を招いたのが、日本の難民政策の一貫である第三国定住事業であった。日本政府は国連難民高等弁務官事務所への多額の拠出金で国外の難民保護に貢献をする一方で、難民認定率が0.2%と極端に低いことを批判される。こうした中、難民受入れの取り組みの一貫で実施された再定住難民の受け入れであるが、候補者が集まらないという事態が起きた。研究計画の段階で、援助や政策決定の場において難民の視点が欠如していることがその主な原因であると分析した。そこで本年は、「移動する人の意志」に注目して、人が移動する場所を決定する過程をタイの難民キャンプでのフィールド調査をもとに分析を行った。18世帯、約50名の難民を家庭訪問する中で、歴史認識の問題、社会資本、難民登録の問題等が浮き彫りになった。移住先に親戚や知人がいないことや政治的な制度の問題は、本人の意志とは別の複雑な事情が彼らの移動を決定している。また、戦いの歴史が彼らの国に対する印象を否定的なものにしている。難民状況に追いやられながらも、いくつかの選択肢のなかで現実的な道を選ぶ。マクロな流れの中で排除されるミクロな難民の視点に着目する中で得られた分析となる。本年度の研究では、フィールド調査、文献調査、同分野の研究者や実務者との意見交換を行う中で、難民を取り巻く国、支援者、家族の状況が難民の移動する意志を制限していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は人の移動の意思決定過程について考察を行った。政策面において、難民の視点が欠如していることから具体的には「難民が日本を行き先として選択しない理由」を分析することを目的にタイで調査を実施した。タイ北部の難民キャンプ(メーラ、ヌポ、ウンピアム)を訪問し、各キャンプリーダー、支援者、また18世帯の家庭訪問を行い、総勢50名ほどの難民から聞き取りを実施した。 調査をもとに、2つの報告にまとめる中で分析を行った。10万人以上が滞留する難民キャンプで日本行きを希望する候補者が30名の定員枠を満たせない理由が浮き彫りになった。1つは、制度的な問題である。タイ政府は難民流入を恐れ、先進国への再定住の必須応募要件である難民登録を2005年に停止した。また、もう1つの理由として社会的なネットワークが未構築であること。最後に、歴史認識の相違があげられる。日本軍と戦争した歴史のあるカレン族である難民は、親族が殺害された経験を多くの人が持ち、日本に対して「怖い」イメージをもつ。また、各キャンプリーダーも歴史的背景から日本行きを望むものが少ないと言及した。今年度の研究では、人の移動決定過程において、様々な要因が絡み合い、それが数字的な結果として表れていたといえる。また、難民状況に追いやられながらも、選択肢が与えられる中には複雑な心理状況が伺える。 研究計画について、タイ政府の管理下にある難民キャンプでの調査は移動の制限が厳しいため、調査が短期間での実施となったこと。また、政治的な事情で情報提供者へのアクセスが容易でなく、国内での調査が予定通り遂行できなかった点が、「計画以上」の進展とはいえない理由である。しかし、国外での調査では予想以上の情報収集ができ、予定通り研究を遂行することができた。この点が、研究は「おおむね順調に進展している」を選択した理由とする。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題である「人の移動と人間の安全保障:難民の再定住と社会統合の人類学的研究」を中心に、平成26年度は人の移動の意思決定過程について分析するため、タイ国内に滞留する難民の再定住を具体例として取り上げ考察した。2年目となる平成27年度においては、社会統合を課題に再定住難民を受け入れた国に焦点を定めて研究を遂行する予定である。米国、欧州、豪州が最も多くの再定住難民の受入れを実施している。タイに滞留する難民に限らず、緊急を要する世界各地の紛争地からの難民を大規模に受け入れている。第一庇護国からの難民受け入れの歴史が浅い日本がこうした国々から学びを得ることは重要である。日本国内の社会統合については、一つの社会の価値観や文化に統合する印象がある社会統合という言葉よりも、多文化共生の言葉の方がより日本の状況が表現されている。移民問題と同様に、難民問題は1つの分野ではなくより多角的な視点で分析される必要がある。文献調査や実地調査に加えて、実践者の視点も把握する必要がある。再定住した難民への聞き取りという人類学的な視点と平行させ、難民分野に携わる実務者への聞き取りも実行する。具体的には、政策決定側として政府(法務省・難民認定室、外務省・人権人道課等)、また国際機関では国連難民高等弁務官事務所、国際移住機関、難民支援を行うNGOとしてシャンティ国際ボランティア会などの職員を調査対象とする予定である。再定住した難民への調査、政策決定者やNGO等の難民や移民に関わる実務者への聞き取りの2つの調査を中心に遂行し、研究課題の全貌を明らかにする。また、成果報告先としてタイで7月に開催予定の人類学国際学会、IUAES Inter-Congress 2015において学会報告することが決定している。その他に、人間の安全保障学会や英国オックスフォード大学の難民研究センター発刊の学術誌、Journal of Refugee Studies等への投稿を計画している。
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Research Products
(4 results)