2014 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の演劇写真から歌舞伎の近代化および近代演技の成立過程を検証する
Project/Area Number |
14J09808
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村島 彩加 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 演劇写真 / 歌舞伎 / 近代 / 表情 / 演技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、今後の研究に資する基礎的な情報収集として1幕末~明治30年代における演劇写真撮影者情報および現存する写真現物の所在・写真情報の調査、2演劇雑誌『歌舞伎』『演芸画報』掲載の演劇写真情報の収集、さらに研究テーマに即した調査・研究成果の学会発表、論文執筆を行った。 まず、基礎的な情報収集の作業の成果を述べる。1としては、在野の古写真研究者より明治初年に撮影されたと見られる演劇写真のデータの提供があり、その被写体についての調査・研究を行った。その成果は平成27年度中に公開の予定である。2については、下記の学会発表と論文執筆を優先したため、現時点では『歌舞伎』40号までの調査に留まった。1、2の作業は次年度以降も継続する。 続いて、研究テーマに即した調査・研究成果の学会発表、論文執筆について述べる。平成26年度は以下の3点の成果がある。(1)【論文】「演劇写真研究の泰斗・安部豊の仕事-その成果と活用をめぐって-」(三恵社、2015、印刷中)(2)【口頭発表】「九代目市川団十郎 家康像の変遷-『松栄千代田神徳』を中心に-」(歌舞伎学会)、(3)【論文】「「表情」をめぐる冒険-20世紀初頭、新旧俳優の挑戦-」(森話社、2015、印刷中)。 (1)は従来演劇研究で着目されることのなかった演劇写真研究者・安部豊を紹介し、その仕事を現在の演劇研究に活用する方法を提唱したものである。(2)は九代目市川団十郎の演技・演出の変遷を「徳川家康」役の演劇写真を参考に考察したもので、演劇写真研究に作品研究を取り入れた新たな試みであった。(3)は、役者の演技や演劇写真の「表情」が重視されるようになった明治40年代に着目し、近代日本演劇における演技術の変化を検証した。いずれも従来取り上げられることの少ない作品や人物を取り上げており、近代日本演劇研究に新たな視点を与えるものであったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題である「近代日本の演劇写真から歌舞伎の近代化および近代演技の成立過程を検証する」に関する成果としては、2本の論文と学会での口頭発表が1回あり、それらにおいて、従来取り上げられることの少なかった人物や作品を考察対象とし、一定の成果を挙げることが出来た。そのため、大筋では順調に進展したのだが、今後の研究に必要な基礎的な調査として掲げた目標のうちの一つである「演劇雑誌『歌舞伎』『演芸画報』掲載の演劇写真情報の収集」が遅れているため「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度も、研究課題に即した個々の事例を取り上げ、論文執筆、学会発表を積極的に行う予定である。また現存する演劇写真の調査、撮影者についての情報収集、『歌舞伎』『演芸画報』掲載の演劇写真調査といった作業は継続して行う予定であり、大筋として研究の方法・目標に変化はない。 問題点としては、今後の研究に必要な基礎的な情報収集として、演劇雑誌『歌舞伎』『演芸画報』掲載の演劇写真情報の収集を行ってきたが、論文執筆や学会発表のために作業が大幅に遅れてしまったことが挙げられる。『歌舞伎』掲載の演劇写真は総数がそれほど多くないため、次年度も継続し、平成27年度前半に終了する見込みだが、『演芸画報』は掲載写真の全体数が多い。そこで、同誌の掲載写真については、本研究課題推進に必要な「表情」と「構図」が特徴的なもののみを抜粋し、その被写体情報や撮影者についての情報を収集することに変更する。この変更により、当初の予定に大幅な遅延および変更をきたすことなく、今後の課題遂行が可能となる。
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