2015 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の演劇写真から歌舞伎の近代化および近代演技の成立過程を検証する
Project/Area Number |
14J09808
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村島 彩加 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 演劇写真 / 近代化 / 演技術 / 表情 / 表現 / 狂気 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究実績としては1、西洋比較演劇研究会におけるシンポジウムの主催と口頭発表、2、歌舞伎学会秋季大会における口頭発表の2点がある。その内容と意義については以下の通りである。 1、申請者は平成27年10月10日に成城大学で開催された西洋比較演劇研究会シンポジウム「演劇の近代化と俳優術の変容」を西洋演劇の若手研究者2名と共に主催し、口頭発表と討論を行った。シンポジウムのテーマは申請者の研究課題「近代日本の演劇写真から歌舞伎の近代化および近代演技の成立過程を検証する」に即したものである。申請者の口頭発表「明治・大正期の狂気の表情 ―演劇写真を手がかりとした一考察―」では、明治末期~大正期の演劇雑誌に多く見出される、役者の「狂気」の演技を捉えた演劇写真を研究対象とし、近世と近代で「狂気」の定義および演技はどのように変化したのかを検証した。その結果、明治維新以降に西洋からもたらされた精神病理学の影響で人々の「狂気」に対する認識が変化し、従来の演技術では表現し得ない写実的な「病」の描写が求められるようになったこと、その表現の一手段として役者は「表情」の研究に重きを置くようになり、「狂気」の演技を捉えた演劇写真は、その成果の記録と研究の一助となった可能性を指摘することが出来た。この「狂気」の演技を捉えた演劇写真の研究は、申請者が研究計画のひとつとして掲げていたものである。 2、申請者はまた同年12月13日に学士会館で開催された同大会において口頭発表「福地桜痴試論―『侠客春雨傘』を中心に―」を行った。同発表で取り上げた『侠客春雨傘』は従来の近代日本演劇研究では等閑視されていた作品だが、それを研究の俎上に上げただけではなく、同作品の登場人物が実在の演劇写真撮影者をモデルとしていることを指摘、通常の作品研究に留まらず、申請者の研究課題に即した報告を行うことが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調に進展している」と自己評価する理由としては、以下の3点を挙げることが出来る。 1、「近代日本の演劇写真から歌舞伎の近代化および近代演技の成立過程を検証する」という研究課題に即した調査・研究とその成果の報告を行っている 2、特別研究員申請時より大きな研究課題の一つとして挙げていた、明治末~大正期に多く演劇雑誌に掲載された「狂気」の演技(表情)を捉えた演劇写真の研究を遂行出来た 3、従来の作品研究に、申請者独自の視点を盛り込んだ報告を行うことが出来た 以上の点は当初の研究課題および計画に即しており、積極的な評価を行うことが出来る。だが、計画通りの成果であり、予想を超えた大きな発見・進捗とはいえない。また、平成27年度は国際学会における英語での報告を予定しており、その準備のために渡英して調査することも計画に盛り込んでいたのだが、申請者と報告を予定していた学会の事務局との連絡ミスにより、報告の遂行が不可能となってしまった。報告は改めて次年度に行うこととし、今年度内にその準備は進めてきたので、研究の進捗としてはそれほどの遅れはないのだが、当初研究計画として掲げていた報告が果たせなかったのは遺憾である。以上の理由により、進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、以下の3点を遂行することを目的としている。 1、国際学会での口頭発表 2、平成27年度の報告成果を論文として学会紀要に発表する 3、博士論文の完成 1については平成27年度に行う予定であったため、調査などは概ね終了しており、報告を行う学会の事前審査で受理されれば、予定通り遂行することが出来る。2については平成28年度内に投稿することが出来るよう準備を進めており、問題なく遂行することが出来ると考えている。3についてはこれまで発表してきた論文に、この3年間の調査・研究成果を反映させてまとめる予定である。平成28年度内の博士号の取得は難しいかもしれないが、同年度内に論文を提出することは可能であると見込んでいる。 以上3点の計画を挙げたが、いずれもこの3年間の調査・研究成果の総括に当たる作業であり、あまり無理のない計画となっている。しかし、これらの研究発表・論文の他に、博物館・美術館等に秘蔵されている演劇写真の調査も当初の研究計画には盛り込まれており、現時点ではまだそれが果たせていない状況にある。平成28年度は3を最重要視しているため、長期間の海外での調査などは難しいかもしれないが、都内および東京近郊の博物館・美術館への訪問・調査を行いたいと考えている。
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