2014 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリスにおける統治構造の再検討--長い18世紀ロンドンの治安維持を中心に
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14J10169
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野寺 瑶子 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 治安維持 / ロンドン / 義勇団 / 首都警察 / 対仏戦争 / 内務省 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、新たに治安維持の観点から、治安維持に関係する諸機関―議会、政府、内務省、地域当局、義勇団等のあり方と連携の実態を探ると共に、その変容の過程を明らかにすることによって、「長い18世紀」イングランドの統治構造の一端を解明しようと試みるものである。本年度は、対仏戦争に伴う新規の治安維持業務及び新たな担い手の参入に着目して、治安維持構造の変容と首都警察導入との関連について考察を試みた。 まず、ロンドンの主要な義勇騎兵団の一つ、ロンドン・ウェストミンスタ義勇軽騎兵団(LHV)を取り上げ、その報告書を精査した上、フランス革命戦争期の組織形態と活動実態について様々な視点から分析を行った。その結果、地域共同体、そして個人の生活基盤を共に守ろうとする自警の精神が活動の原動力となっていたことを見出した。続いて、 (1) ナポレオン戦争期及び対仏戦争終結後のLHVの活動実態の変化の解明、(2) LHVと同時期に活動したロンドンの他の義勇団の組織形態及び治安維持活動の実情についての比較、(3) ロンドン各地の地域当局と義勇団の連携のあり方の考察、以上三点を課題とした。主な史料として、LHV関係文書のうち、1801年から1829年までの団長や委員会の報告書、シティの各区で構成されたロイヤル・ロンドン義勇団の議事録、そして、地域当局と義勇団の連携において重要な役割を果たした内務省から各地域当局や義勇団への指示を伝える書簡の記録である信書控帳を用いた。こうした一次史料の分析をもとに、それまで騒擾対応に当たっていた地域当局と陸軍に比べて、義勇団が双方の利点を併せ持った組織として重宝され、従来の行政単位の管轄区域を超えて実践面から治安維持構造について新たな形態を呈示し、後の首都警察設立に多くの示唆を与えたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年7月から8月にかけてイギリスで約1カ月間史料調査を行い、国立公文書館やロンドン首都文書館にて本研究を進める上で不可欠な手稿史料を収集することができた。収集した一次史料の分析から、従来専ら財産侵害罪の増加が要因とされた、ロンドンへの近代警察導入について、対仏戦争期の騒擾対応のあり方を考察することにより新たな視点から捉え直すことができた。こうした研究成果の発信についても学会発表を通して予定通り行うことができた。また、これまでの研究成果をまとめる論文を執筆し、現在学術雑誌への投稿に向けて準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、対仏戦争期ロンドンにおける義勇団の治安維持活動をより多面的に分析するため、新たにロンドンの名誉砲兵隊(HAC)を考察対象に加えることとし、平成27年度中に名誉砲兵隊文書館にて史料調査を行い、必要な一次史料を収集し、分析を進める。第二に、地域当局と義勇団に代表されるように、地域的諸団体によって営まれていたロンドンの治安維持のあり方をふまえつつ、英国図書館所蔵の主要政治家の書簡等を用いて、ロンドンの治安維持にいかに議会・政府が関与していたかについて考察していく。第三に、これまで近現代の福祉国家につながる社会政策上の問題として注目されてきた救貧に関して、新たに治安維持の観点から救貧法改正への動きを検討する。治安維持の担い手が救貧にも携わっていたことに着目して、その出発点として、治安判事パトリック・カフーンのイースト・エンドでの活動を考察する。
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Research Products
(3 results)