2015 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリスにおける統治構造の再検討--長い18世紀ロンドンの治安維持を中心に
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14J10169
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野寺 瑶子 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 治安維持 / ロンドン / 義勇団 / 治安判事 / 首都警察 / 懲治院 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、治安維持の観点から、議会、地域当局等の関係諸機関を巨視的に捉え直し、各々の組織の関わり方と連携の実態を探ると共に、その変容の過程を明らかにするものである。近世から近代の過渡期に当たる「長い18世紀」イングランドの統治構造の全体像を描くことを目的とする。 18世紀末から19世紀初頭にかけて騒擾が頻発し、対応が求められる中、新たに注目される義勇団の役割を中心に考察した。まずは、ロンドン・ウェストミンスタ義勇軽騎兵団とロイヤル・ロンドン義勇団を取り上げ、両義勇団の報告書や議事録を精査し、その存在意義について具体的に考察を加えた。そこから、従来の担い手である地域当局の非機動性と陸軍出動による市民の動揺といった懸念を払拭してくれる義勇団の存在意義が明らかになった。さらに、議会の討論記録や委員会報告から、戦争終結に伴い義勇団の財政基盤が揺らいでいく中、義勇団の非専業性を克服するため、義勇団の持つ軍事的規律を有する警察機構の整備が検討されるようになったことも明らかになった。 続いて、犯罪予防の観点に基づく貧民対策を取り上げ、処罰対象となった貧民を収容する懲治院の役割を重点に、治安維持の一環として救貧活動の実態について考察を試みた。ミドルセクス懲治院における、1780・90年代の新施設建設事業、さらに1794年以降の新施設の運営状況について、議会委員会報告やミドルセクス州四季法廷の議事録を用いて詳しく考察した。懲治院とは労働によって収容者を矯正することを目的としているが、実際の運営は規則からの逸脱が明るみとなり、議会や治安判事が懲治院の本来の目的に回帰するために尽力したことが分かった。この懲治院の矯正の理念は近代の刑務所へと受け継がれると言えよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
テューダ朝以来受け継がれてきた治安維持のあり方は時代の変化につれて対処できない部分が増え、機動力を持つ軍隊の協力を求めざるを得なくなったが、国内の騒擾対応に軍隊が出動することに国民の多くが抵抗を覚える中、機動力を持ちながら市民によって結成された自発的団体である義勇団がいかに18世紀末に求められていた存在であったか、この存在意義を持った義勇団が後の警察機構の成立に寄与したことに大きな意味があると言えよう。現在この研究成果を論文にまとめ、学術雑誌への投稿に向けて準備を進めている。また、18世紀の懲治院について、これまでの研究において監獄と同化したとされたが、懲治院本来の役割が引き続き期待されていたことが明らかになった。近代刑務所において融合する、近世懲治院の役割と監獄の役割が過渡期の18世紀において分離した形で維持・発展を遂げようとしていたことが窺える。この成果について研究会での報告という形で発信することができた。さらに、平成27年8月から9月にかけてイギリスで史料調査を行い、国立公文書館やロンドン首都文書館にて、治安維持と救貧との関連についてさらに研究を進める上で不可欠な手稿史料を収集できた。今後さらに分析を進めていけば、より深化した結論を導くことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、対仏戦争期ロンドンにおける義勇団の治安維持活動をより多面的に分析するため、ロンドンの名誉砲兵隊(HAC)の組織と治安維持活動への参与についても考察する予定である。平成27年度は文書館の都合により史料調査を行うことができなかったため、改めて名誉砲兵隊文書館を訪れ、必要な一次史料を収集し、分析を進める。第二に、治安維持の観点から救貧法改正の動きを検討するため、ミドルセクス州タワー治安判事担当区に属する教区の救貧関連史料を収集し、救貧費の高騰が教区財政を圧迫していたロンドン東部における貧民対策の実態について考察する。第三に、イングランドの治安維持機構の変容がブリテン世界、及びヨーロッパの他地域にどう受容されていったかについて考察するため、犯罪学に関する国際学術雑誌Crime, History and Societies誌の関連論文等を参考にしたい。さらにイングランドに先駆けて警察機構が導入されていたアイルランドやフランスの治安維持構造との比較に取り組みたい。
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Research Products
(1 results)