2014 Fiscal Year Annual Research Report
精神障害者の運動の現代史--抑圧への抵抗実践からの問い直し
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14J10211
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
桐原 尚之 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 障害学 / 狂気 / 社会運動 / 現代史 / クレイム申立て活動 / 社会的ネットワーク / 差別からの解放 / 集合的アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、精神障害者は、国策によって強制収容・長期拘禁など非人道的な処遇を受けている。本研究では、その原因たる権力の所在を専門職の知の体系である精神医学・社会福祉学に求める。こうした権力は、被支配側による抵抗というかたちで不可分に闘争を生じさせてきた。ところが精神医学・社会福祉学では、精神障害者による抵抗の事実を意図的に記述しないことによって通例とされる歴史認識を継承してきた。そこで、精神医学・社会福祉学の歴史認識を批判するため、精神障害者による社会運動の歴史を記述していく。 2014年度は、主に①赤堀闘争の歴史、②鈴木國男虐殺糾弾闘争の歴史、③宇都宮病院事件の歴史の3つを論文としてまとめた。①赤堀闘争の歴史では、無実の死刑囚赤堀さんの救援という同じ社会問題に取り組む社会運動でも差別からの解放という視座を有する社会運動と冤罪事件として解放という視座を有しない社会運動とでは社会に与える影響が異なることを示した。②鈴木國男虐殺糾弾闘争の歴史は、鈴木國男君虐殺事件とその議論によって精神障害者の社会運動が獲得した連帯の志向性について検討した。その結果、集合的アイデンティティの外の者に対して、連帯するか/敵とするかという枠組みを採用せず、精神障害者の独自の闘いの目標と手段を設定し、いかなる者とでも共闘できるところで共闘するという部分共闘の線を貫くというかたちで独立性を獲得したことが明らかになった。③宇都宮病院事件の歴史は、日本の精神衛生行政史上において重要な事件とされる宇都宮病院事件について定説とされる歴史認識を再検討した。宇都宮病院事件告発者及びその協力者の意図は、宇都宮病院の解体、宇都宮病院への制裁、精神医療の改善による再発防止、宇都宮病院入院患者と退院患者の介護の4点であり、1987年法改正との関係が認められず、1987年法改正は告発者にとって意図しない帰結であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請書の(4)年次計画では、2014年度に実施すべきこととして次を掲げている。①資料調査:全国「精神病」者集団の刊行物類、全国精神障害者団体連合会の刊行物類、全国精神障害者ネットワーク協議会の刊行物、救援連絡センターの新聞『救援』。②聞き取り調査:北海道の患者会、東京の患者会、愛知の患者会、京都の患者会、大阪の患者会、兵庫の患者会、福岡の患者会(これらを中心に据える)。③学術論文の執筆:各地域の団体の形成過程の現代史について論文を執筆し『福祉社会学研究』に投稿する。全国「精神病」者集団、全国精神障害者団体連合会、全国精神障害者ネットワーク協議会のそれぞれの違いや関係性の現代史について論文を執筆し、『ソシオロゴス』に研究論文として投稿する。 これに対して次のとおり研究活動を実施した。①資料調査:全国「精神病」者集団の刊行物類、全国精神障害者団体連合会の刊行物類、全国精神障害者ネットワーク協議会の刊行物、救援連絡センターの新聞『救援』に加えて、大野萠子氏提供の資料、その他複数の患者会の提供資料を調査することができた。②聞き取り調査:聞き取り調査は、青森県(1か所)、宮城県(1か所)、東京都(4か所)、長野県(1か所)、愛知県(1か所)、京都府(1か所)、大阪府(1か所)、兵庫県(1か所)、福岡県(2か所)、長崎県(1か所)、熊本県(1か所)、沖縄県(2か所)で行なった。北海道は2013年度に調査を行ない、すでに終了している。③学術論文の執筆:地域の団体の形成過程の現代史についての論文執筆は、資料が揃わなかったため次年度以降に見送ることとした。全国組織の形成過程の現代史についての論文執筆は、学術誌に投稿せずに博士論文の一節として使用できるように研究ノートの作成にとどめた。
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Strategy for Future Research Activity |
資料調査:【1】引き続き地域患者会・病棟患者会にかかわる資料調査を実施し、資料の集積と系統立てた整理・保存をしていく見込みである。【2】障害学の議論の蓄積にかかわる国内外の図書(テキスト)資料を入手し、精神障害の観点から見た問題点を明らかにすべく分析読書をしていく見込みである。②聞き取り調査:北海道(1か所)、青森(1か所)、東京(3か所)、埼玉(1か所)、富山(1か所)、名古屋(1か所)、宮崎(1か所)、沖縄(1か所)を実施する見込みである。③学術論文の執筆:【1】各地域の団体の形成過程の現代史について論文を執筆する。【2】全国「精神病」者集団、全国精神障害者団体連合会、全国精神障害者ネットワーク協議会のそれぞれの違いや関係性の現代史について論文を執筆する。【3】1990年代以降の処遇困難者専門病棟・医療観察法廃止運動の言説について論文を執筆する。【4】医師、家族、法律家等のアクターの影響力と関係性について論文を執筆する。
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Remarks |
当該ページには、研究者が採録した史料類の全文が一覧となっている。
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Research Products
(16 results)