2014 Fiscal Year Annual Research Report
C・W・ミルズのプラグマティズム研究-自己論と「公衆教育」のつながりに着目して
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14J10309
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 正哉 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 公衆のコミュニティ / 討議 / C・W・ミルズ / 高等教育 / 社会学研究法 / 経験の言語化 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、「C・W・ミルズのプラグマティズム-自己論と「公衆教育」のつながりに着目して」というテーマで本年度を研究を行い、特にミルズの社会学研究法および高等教育研究について研究を行った。本年度において特に取り組んだ点として、なぜミルズが「社会学研究法」の視点から高等教育、コミュニティを再編しようとしたのかについて明らかにした。そこで明らかになったのは、ミルズが「公衆のコミュニティ」の原理に異質な他者との討議という活動を中心に据えていたこと、そして社会学研究法はその討議における個人の経験の言語化を可能にする方法であることである。そして、ミルズはその討議を具現化させるためにコミュニティの中心としての高等教育機関を構想したのである。ミルズによる研究は現代の高等教育改革に呼応しうるものであると考えられる。すなわち、高等教育がコミュニティの中心となり、研究者、住民、行政が相互に交流する場所となるという理念である。報告者は以上のような点で今年度の研究を有意義なものであると考える。 また、ミルズのコミュニティ研究だけにとどまらず、報告者は様々な教育実践例について調査を行った。具体的には、富山市立堀川小学校の授業見学、山梨県北杜市のKEEP協会のインタープリターズキャンプへの参加である。報告者はミルズの理念が具体的にどのような教育実践となりえるのかを明らかにすることを調査の目的とした。そこでは、子どもが自分で問題を発見し解決し、その参加がなぜ必要なのかを自分の言葉で考えさせる、といった教育実践の可能性を発見した(堀川小学校)。また、主体的に考えさせるために、いかにして教師が場や問題を設定し、自分で問題を探させるかの具体的な教育方法について学んだ(KEEP協会)。 以上のように、報告者はミルズの理論研究、教育実践の調査と広く研究活動を行うことができた。なお、提出論文は査読結果が未完了である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者は、学会発表、論文執筆、学術調査など、今年度は精力的に活動を行った。学会発表については、3つの学会で研究発表を行い、有意義なコメントが寄せられた。日本社会学会においては「歴史社会学としての「平成時代」研究とは何か―C・ライト・ミルズの「社会学的想像力」の再考として」(平成26年11月2日)の発表を行い、ミルズの社会学が持つ可能性について口頭発表し、様々な反響を得ることができた。年度末には「C・ライト・ミルズの都市社会研究における高等教育への視点―都市問題とシティズンシップ教育に関する試論」、「『危機の時代』におけるC・ライト・ミルズの社会学方法論―『自己』と公共性とのつながりに着目して」という2つの論文を発表し、プラグマティズム研究において「公共的争点」(public issues)という視点を中心とした民主主義社会に特徴的な討議を引き起こさせるような社会学研究および方法論がいかに論じられたのかを明らかにすること、ルイス・マンフォードやソースティン・ヴェブレンなどのアメリカ社会研究者たちからミルズが受けた「批判的スタイル」という影響関係について述べた。以上のように、学会活動では有意義な研究成果を得たと考えている。 研究調査では、KEEP協会、富山市立堀川小学校への教育活動の見学・研修を行い、「教育とコミュニティ」という視点について意見交換することができた。また、コミュニティ調査を積極的に行っている京都大学教育学部にも出張を行い、意見交換を行った。 ただし、報告者は研究論文発表という点で不十分であると考えている。合計2つの論文を執筆し、投稿したものの、掲載という形には至っていない。また、研究調査でも成果となるものの発見には至っていない。以上の点を考慮した上で、報告者は「おおむね順調に進展している」と自己評価する次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
報告者は、今年度の成果を踏まえて、①昨年度の学会発表をふまえた研究論文の執筆、②研究調査で訪問した地域についてのフィールドワークをまとめた研究成果の発表を今年度の課題としたいと思う。 ①については、昨年度の学会発表、論文執筆でのコメントを踏まえた上で、「ミルズのプラグマティズム」についての研究を行おうと思う。具体的には、ジョン・デューイのコミュニティ論、ノーマン・K・デンジンらの質的社会調査論など、コンテクストを踏まえてミルズのネットワークを確立することである。この作業をすることによって、デューイやシンボリック相互作用論といったアメリカ哲学・社会学の潤沢な先行研究群と、ミルズを「プラグマティズム」という総体的な枠組みで捉えることが可能となる。 ②については、特に研究調査を通じて関係を構築した自然学習・学校教育の従事者を通じて、教育実践を記述した研究を行うとことである。昨年度は多くの調査を行ったものの、素材集めが中心であり、学会発表でも抽象的な視点の補強材料としてしか機能していなかった。本年度はその反省を生かして、特に教育関係者へのアンケートや協同のプロジェクトを行うことで、教育実践に関する報告・論文執筆を行う。 また、特に①と②の両面に関わる調査として、本年度はアメリカのニューヨーク(コロンビア大学)等で資料調査を行う。そこでは、ミルズをはじめとしたアメリカにおけるコミュニティ研究の歴史と実践についての調査を行う予定である。以上の研究を通じて、今年度において報告者は「ミルズの自己論」および「ミルズの教育論」について、「コミュニティ研究」という視点で接続をはかり、「公衆のコミュニティ」という今年度取り組んだ課題の具体的な内容についての研究を行う。
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Research Products
(3 results)