2014 Fiscal Year Annual Research Report
戦後フランスにおける政治的なものと政治的主体の思想史-E・バリバールを軸として
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14J10355
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
太田 悠介 東京外国語大学, 総合国際学研究院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 大衆 / スピノザ / 政治哲学 / 西欧マルクス主義 / 移民 / フランス / 共同体 / ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
戦後フランスにおいて、政治的なものと政治的主体をめぐっていかなる取り組みがあったのかという全般的な問題設定のもと、本年度はエティエンヌ・バリバール(1942-)の思想を主たる考察の対象とした。 バリバール思想の特質は、スピノザに由来する無定形の集団「大衆(masses)」に政治の根源を見出す点にある。この点を踏まえたことによって、政治の背後にあり、これを成り立たせる「政治的なもの」の定義と政治を担う主体の理論的地位というそれぞれの課題に対して、バリバールの思想に内在した仕方で解答が得られた。すなわち、政治を可能とする原初的な条件として大衆が存在し、そしてその集団性が政治的主体であるということである。政治的なものと政治的主体という両課題をめぐっては、これまで政治哲学(C・ルフォール、M・アバンスール、L・フェリー/A・ルノー)と西欧マルクス主義(A・グラムシ、G・ルカーチ、N・プーランツァス)という別個の系譜がそれぞれ対応してきた。バリバールの大衆論を整理したことによって、これら両系譜を共通の地平のもとに置き、検討を加えることが可能となった。その結果、政治哲学の系譜では政治的なものを考察の中心に置きながら、逆説的にも政治的主体形成に関する理路が不在であることが明らかになった。西欧マルクス主義については、バリバールとそれ以外の思想家とのより個別的な差異化が必要であったたため、ポスト・マルクス研究会での口頭発表の機会などを活用しつつ、大衆概念をめぐる類似点および争点を詳らかにした。 以上のように、本年度はバリバール思想の解明に注力し、この思想を通して浮かび上がる政治的なものと政治的主体をめぐる思想圏の広がりが明らかになった。また、移民現象およびヨーロッパ論を中心に、バリバール思想と実践との接点についても、かなりの程度まで考察を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度末に東京外国語大学に博士論文「大衆の哲学ーエティエンヌ・バリバールの政治思想研究」を提出し、学位を取得した。同論文によって研究課題の大枠を提示することができた。同論文には今後の研究の萌芽も数多く含まれており、次年度以降これを研究成果として公表していくことが期待できる。以上を踏まえて、上記の自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はバリバールとM・フーコーの関係を明らかにする。バリバールの思想は西欧マルクス主義と政治哲学の両領域にまたがるものであったが、1970年代から80年代にかけてのフーコーのコレージュ・ド・フランス講義は、同時代のバリバールと類似した側面がある。フーコーは一貫してマルクス主義に批判的な態度をとり、L・アルチュセールと近い立場にあった60年代から70年代にかけてのバリバールもまたその批判の対象となった。しかし、80年代以降のバリバールの展開は必ずしもこうした批判だけでは退けることのできない射程を備えており、この点の精査は意義があるように思われる。両者の方法論的な相似と差異、またそこから導かれる政治的立場の接近と対立の解明が新たな課題である。
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Research Products
(1 results)