2014 Fiscal Year Annual Research Report
小地域推定の数理的課題と、その経済統計・官庁統計への応用の研究
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14J10395
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川久保 友超 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 小地域推定 / 混合効果モデル / 情報量規準 / 経験ベイズ |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は主に,小地域推定におけるベンチマーク問題に取り組んだ.ベンチマーク法とは,モデルから得られた小地域推定量の総和を,サーベイデータによる直接推定量の総和に一致させるというものである.得られるベンチマーク推定量は,モデルのmisspecificationに頑健であり,また統計の整合性を保ちたいという官庁統計の実務的な要請にも応えることができる. 小地域推定のベンチマーク問題においては,Ghosh (1992, J. Amer. Statist. Assoc.) によって提案された制約付きベイズ(constrained Bayes, CB)推定の手法が有用であり,近年いくつかの文献により,簡単なモデルとベンチマーク制約のもとでCBにもとづいたベンチマーク推定量が導出され,その性質が調べられた.しかし,Slud and Maiti (2006, J. Royal Statist. Soc. B) において提案された,正の値をとるデータに対するtransformed Fay--Herriot(TFH)モデルにおけるベンチマーク問題は,以下で述べるようないくつかの困難があることから考えられてこなかった. CB推定量は,ベンチマーク制約のもとでの事後リスク最小化問題の解として得られる.よってCB推定量は損失関数の取り方に依存するが,既存のいくつかの損失関数では,TFHモデルにおけるCB推定値が負値をとりえたり,CB推定量が陽に書けなかったりといった問題が生じる.そこでKullback--Leibler損失を変形した損失関数を提案し,その結果得られるCB推定量は,ベンチマーク制約のない小地域推定量を定数倍したpro-rata typeの自然なベンチマーク推定量となることを示した. また提案したベンチマーク推定量のリスク評価を行い,日本の家計調査のデータを用いた応用例も示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題においては,小地域推定の理論研究とその応用を行うことを目指している.初年度である本年度は主に,小地域推定で用いられる混合効果モデルの理論研究を行うことを計画していた.その中でも特に「1. 小地域推定のベンチマーク問題」および「2. 混合効果モデルにおける変数選択問題」に取り組んだ. 1については,研究実績の概要で詳述したTFHモデルにおけるベンチマーク問題に取り組み,Biometrika誌に受理された. 2については,条件付AIC(conditional AIC, cAIC)に関していくつかの成果をあげた.(1)正規性を仮定した線形混合モデルにおいて,真のモデルを含んでいない候補モデルに対するcAICの修正,(2)非正規非線形混合モデルへの拡張,(3)推定に使う共変量の値と予測に使う共変量の値が異なる場合のcAICの導出とその小地域推定への応用,以上3点の研究を行った.(1)の研究は,Journal of Multivariate Analysis誌に受理され,今年度8月に正式に発行された.(2)の研究では,自然指数型分布族とその共役事前分布を仮定した非線形混合モデルにおける変数選択規準としてcAICを開発し,「数理解析研究所講究録」に掲載された.(3)の研究は,日本統計学会およびいくつかの研究集会で発表しコメントをもらい,その後国際誌に投稿中である. 以上の業績から,本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断する.最終年度である次年度は,空間情報を組み込んだ小地域モデルの開発を行い,より経済統計・官庁統計への応用性の高い研究も積極的に行っていきたい.
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Strategy for Future Research Activity |
混合効果モデルを利用した小地域推定において,近年重要視されてきているのが,モデルへの空間情報の組み込みである.従来の古典的な小地域モデルは,観測変数は地域間で独立であると仮定し空間情報を無視していた.この問題に対し,近年いくつかの手法が提案されてきた. そのうち,空間非定常なデータに対する手法が,Chandra et al. (2012, Comput. Statist. Data Anal.) によって提案された.彼らは,空間計量経済学におけるgeographically weighted regression (GWR) の手法を用い,線形混合モデルにおいて回帰係数の値が地域によって異なるモデルを考え,重み付けされた尤度関数を用いて係数の値を推定する手法を提案している. しかし上述の2つの手法はともに,カウントデータや2値データのような離散データには直接適用することができない.そこで本研究課題において今後,空間非定常な離散データに対する小地域推定の手法の開発を行うことを目指す.離散データに対する小地域推定の手法としては,一般化線形混合モデル(GLMM)を用いる手法が有名であるため,GLMMにおいてGWRの手法を用いることが自然かもしれない.しかしGLMMは数値計算に時間がかかり,各地域の回帰係数を推定しなければならないGWRにおいては,非現実的な手法といえる.そこでGhosh and Maiti (2004, Biometrika) によって提案された自然指数型分布族とその共役事前分布を用いた非線形混合モデルを利用し,GWRのアイデアにもとづいたパラメータ推定を行う手法を提案したい.彼らの非線形混合モデルは,共役性から周辺尤度関数が陽に書け,数値計算の負荷がGLMMに比べてはるかに小さい.さらに,推定量のリスク評価,ベンチマークなど小地域推定の種々の問題に取り組み,実データへの応用を行いたい.
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Research Products
(9 results)
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[Presentation] 乗法モデルとベンチマーク問題2015
Author(s)
Malay Ghosh, 久保川達也,川久保友超
Organizer
研究集会「経済統計・政府統計の数理的基礎と応用」
Place of Presentation
東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)
Year and Date
2015-01-30 – 2015-01-30
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