2014 Fiscal Year Annual Research Report
合成生物学における人工遺伝子回路を用いた細胞内代謝制御による物質生産効率の向上
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14J10450
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
相馬 悠希 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 人工遺伝子回路 / 代謝流束制御 / バイオ燃料生産 / クオラムセンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人工的な遺伝子発現制御システムである人工遺伝子回路を、代謝工学に応用することを目的としている。人工遺伝子回路を用いることで、従来成し得なかった動的な代謝流束制御を可能とし、バイオ燃料生産における大幅な生産性の改善を目指す。1年目では動的な代謝流束制御を可能とする回路の構築に取り組む。二年目では、クオラムセンシング機構と呼ばれる、微生物が自身の菌体密度を感知するためのシステムを人為的に再構築し、菌体密度に依存して自律的に回路の機能を制御するシステムを開発する。 今年度は人工遺伝子回路による局所的・動的代謝流束制御として、大腸菌において菌体増殖に重要な代謝経路であるTCA回路を、誘導剤添加に伴って動的に遮断する回路の構築に取り組んだ。これによって大腸菌の菌体増殖を担保しながら、バイオ燃料生産期にはTCA回路を遮断することで余剰の菌体増殖や生理活性を抑え、目的生産物であるイソプロパノールの生産性を従来に3.7倍に向上させることに成功した。イソプロパノール生産の前駆体となるアセチルCoAは、イソプロパノール以外の様々な有用化合物生産においても前駆体として利用されるため、本システムは微生物による物質生産全般において、生産性向上のに向けた応用が期待される。上記の研究成果は特許出願申請の後、原著論文として国際学術誌に掲載された。 さらに、本年度は二年目に計画していたクオラムセンシング機構の再構築にも取り組み、ビブリオ菌由来のクオラムセンシング機構を大腸菌おいて機能させ、さらに任意の菌体密度においてその機能が誘導されるように改変した。このシステムを上記の代謝流束制御システムに組み込むことで、大腸菌自身が適切な菌体密度に達すると物質生産とTCA回路の遮断を自律的に誘導するシステムを構築することに成功した。上記の研究成果は、原著論文として国際学術誌に投稿し、すでに掲載が確定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では初年度に代謝工学のための人工遺伝子回路とそのバイオ燃料生産に取り組み、2年度目において人工的なクオラムセンシング機構と組み合わせることを研究計画としている。 第1の課題である代謝流束制御担う人工遺伝子回路は、既にその構築に成功し、これを大腸菌によるイソプロパノール生産に応用することで大幅な生産性の向上を達成することに成功した。この研究は、既に特許申請、国際学術誌への掲載に至っていることから十分な実績を挙げているものと思われる。 上記の研究においては、メタボローム解析を実施し、動的代謝流束制御が細胞内代謝に与える影響を精査するとともに、新たな代謝改変候補の推定に取り組んだ。この結果に基づき、新たな代謝改変に取り組み、イソプロパノール生産性をさらに22%向上させることに成功した。上記の研究成果は現在、国際学術誌に投稿中である。 上記のように、初年度での目標を順調に達成することが出来たことから、申請者は当初2年度目に計画していた課題にも既に取り組んでいる。第2の課題としている大腸菌におけるクオラムセンシング機構の再構成に取り組み、任意の菌体密度において自律的に標的遺伝子発現を誘導するシステムの構築に成功した。さらに、これを上記の代謝流束制御システムと組み合わせることで自律的な代謝流束制御と、それに伴うイソプロパノール生産性の大幅な向上に成功している。この成果は国際学術誌に投稿し、既に掲載が確定している。さらに上記のシステムの機能改善に関する知見も得ており、次の課題に向けた研究を推進している。 このように、2年間に計画していた大きな2つの課題において、既に原著論文2報、特許申請一件の成果を上げていることから、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
既に本研究は、当初計画していた課題をおおよそ達成しているため、今後は本研究においてこれまでに構築した人工遺伝子回路を用いた動的・局所的な代謝流束制御システムと、クオラムセンシング機構を人工的に改変した菌体密度センサーを、大腸菌によるイソプロパノール生産以外の以外の有用物質生産系に展開し、その汎用性と有用性の向上に努める。 所属研究室で構築されている大腸菌におけるその他のバイオアルコール生産やバイオケミカル生産経路と組み合わせる他、新たなホスト微生物として光合成微生物であるシアノバクテリアを用いた二酸化炭素からのバイオ燃料生産への展開を図る。 このため、研究指導委託の形式を取り、カリフォルニア大学デービス校のAtsumi研究室に滞在し、シアノバクテリアの遺伝子組み換え技術およびバイオ生産培養に関する技術習得を実施する。それと並行して目的の組換えシアノバクテリア株を樹立し、シアノバクテリアによる動的・自律的な代謝流束制御の実現に向けた技術基盤の構築を目指す。 まず、申請者が構築している遺伝子回路をシアノバクテリアにおいて再構成する。また、クオラムセンシング機構についても、大腸菌からシアノバクテリアに移築する。上記の2つのシステムをシアノバクテリアでの物質生産に応用するために、まずはシアノバクテリアにおけるシステムの機能性を評価し、構成要素の発現量などのパラメータを調整することで望みの動特性を得るよう再構成する。
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Research Products
(12 results)