2014 Fiscal Year Annual Research Report
三次元仮想物理環境に基づく形質進化と個体群動態の相互作用の構成的研究
Project/Area Number |
14J10516
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 孝 名古屋大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 人工生命 / 個体群動態と形質進化の相互作用 / 捕食被食共進化 / 形態行動共進化 / 三次元仮想物理環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,個体群動態と形質進化が相互に影響を与えうることが報告されている.この相互作用はEco-evolutionary feedbackと呼ばれ,生態系理解の上で非常に重要である.報告者はこの相互作用の三次元仮想物理空間上における仮想生物の捕食-被食,形態-行動共進化に基づいた人工生命的な手法による解明を目的とし研究を遂行している.本研究では実験環境として遺伝的アルゴリズムによる仮想生物の形態と行動の共進化が可能な三次元仮想物理プラットフォーム「Morphid Academy」を用い,個体群動態と捕食被食共進化を同時に扱うことが可能なモデルを構築した. この相互作用の基本的な挙動を明らかにするため,被食者のみの進化実験を行い,その結果,短期間と長期間において異なったダイナミクスを観察した.短期間では 個体数変化のみによって生じるLotka-Volterra方程式に似たダイナミクスが生じることが解明された.一方で長期間では,個体数の増減に応じて被食者に対する防御形質とコストの選択圧が切り替わり,それに対する被食者の形質進化に基づいて個体数が増減するといった,形質進化と個体群動態のフィードバックループが起こるダイナミクスが生じることが解明された. 次に両者を共進化させ,このダイナミクスへ与える影響を様々な面から分析した.まず遺伝オペレータに着目し,その種類と捕食被食間の非対称性がダイナミクスに異なった影響を及ぼすことを示した.また,生態系に大きな影響を与える絶滅と進化の関係に着目し,捕食/防衛戦略進化の軍拡競争が系を不安定にさせ,捕食者の絶滅リスクを高めること,形質進化の推移から絶滅までの時間の推定が可能であることを示した. このような相互作用を仮想物理環境を用いた人工生命モデルで取り扱ったのは初めてであり,得られた知見は人工生命のみならず実世界にも適用が可能であると期待できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来の三次元仮想環境における仮想生物の進化モデルを拡張し,形質進化と個体数変化を同時に取り扱うことを可能にしたモデルの構築に成功した.これは初めての試みであり,人工生命的なアプローチで,最近注意を集め始めた個体群動態と形質進化の相互作用の理解を深めることが可能であることを示すことができた.本モデルを用いた実験によって得れらた知見を従来の数理理論研究や実証的研究と比較した結果,実際の生態学などへの適応可能性を示すことができた.これらに加え,本モデルを用いて個体群動態と形質進化の相互作用のダイナミクスの様々な要素に対してアプローチを行い,遺伝オペレータがダイナミクスに与える影響や,絶滅に対する進化の影響などを分析することができた. これらの結果は,個体群動態と形質進化の相互作用に対する人工生命的アプローチの有用性を示すことができたという点に加え,このダイナミクスを研究する上で本モデルを用いることで様々な方向性からのアプローチが可能であることを示した点,今後の三次元仮想物理環境での仮想生物研究の拡張の可能性を示したという点にも大きな意義がある. 本研究で得られた成果は構成論的生物学のナンバー1のジャーナルに投稿され,掲載が決まったほか,複数の国際会議やコンペティションで発表を行った. これらは当初の研究計画以上に進行しており,本研究の研究進捗状況に関しては期待以上の進展があったと評価できる.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度から継続し,本モデルで可能な他の面からのアプローチを検討し,実験分析を行う.また,これらの研究を総括し,従来の数理理論的研究や実証的研究との比較検討を行うことで,本研究の生態学領域への位置づけを行い,該当分野へ新たな視座をもたらす. また,これまでの研究の結果を踏まえ,本モデルの特性や問題点を把握し,これらを反映した群行動と形質進化の相互作用モデルを新たに構築する.形質進化と群れ構造の相互作用に焦点を合わせ,両者の関連性を明らかにするために,構築したモデルを用いて進化シミュレーションを用いた実験を行う.その結果を分析することで,実際の生物の群行動と形質の特色との比較を行い,これらの関連性やその進化ダイナミクスについて考察する.また,これまでの研究の知見を動物生態学と比較検討することで従来の生物領域の中への位置づけを試みる. その後,進化ロボティクス分野における提案モデルの応用可能性を探るため,計算機実験だけでなく実空間上でも実験を行う.小型ロボット群を用いてロボット群同士の相互作用についての実験を行う. これらの成果を学術論文誌へ投稿および,国際会議等において発表する.
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Research Products
(3 results)