2015 Fiscal Year Annual Research Report
発展途上国における農業の持続可能性に関する経済学的分析
Project/Area Number |
14J10587
|
Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
會田 剛史 政策研究大学院大学, 政策研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 農薬使用 / 空間計量経済学 / リスクシェアリング / 私的所得移転 / 灌漑 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマは発展途上国における農業の持続可能性に関する経済学的分析である。このテーマに基づき、平成27年度は主にフィリピン農村地域の農薬使用における空間的相互依存関係の研究を進めるとともに、昨年度以前から進行中の研究について更なる改訂を行った。具体的な内容については以下の通りである。 (1)International Rice Research Instituteがフィリピン・ボホール島において収集した農家家計パネルデータを使用し、空間計量経済学モデルによって分析を行うことで、農薬使用における空間的相互依存関係を明示的に分析した。分析の結果、特に除草剤の使用において、被害の程度が空間的に相関していないにも関わらず、使用量自体には有意な相関が発見された。これは、各農家が周りの農家の農薬使用パターンを非合理的に真似しているという仮説と整合的であり、政策的介入により農薬削減が可能であることを示唆している。なお、この研究に関連して、3月上旬にボホール島にてフィールドワークを実施し、農薬使用を中心とした農業実践に関するインタビュー調査を行った。この調査により、分析結果の妥当性を確認するとともに、調査結果に基づいた簡単な定性的分析も論文中に追加することができた。これらの研究成果については、国内の学会・セミナーで発表した。 (2)博士論文の一部を拡張した研究であるスリランカ南部農村地域におけるリスクシェアリングの地縁・血縁ネットワーク効果の比較検証研究について、国際学会で発表した。 (3)昨年度から東京大学の澤田康幸教授と共同で実施している、私的所得移転の背後にあるメカニズムを検証する研究について、論文を執筆した。この研究成果は国内の学会・セミナーで発表し、得られたフィードバックに基づき、分析の大幅な改訂を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度においては、農薬使用の空間的相互依存関係に関する研究を中心に実施した。この研究については、前年度の基本的な分析から大幅な改善を行い、論文を執筆した。また、家計調査の対象家計においてインタビュー調査を実施して、データ分析の妥当性を確認するとともに、定性的な分析を追加することができた。この成果は、国内の学会・セミナーにて発表し、得られたフィードバックに基づいて論文を改訂した。この論文については、間もなく所属大学のディスカッションペーパーとして公開される予定である。リスクシェアリングの地縁・血縁ネットワーク効果の比較検証研究についても、国際学会にて発表を行った。この論文については、間もなく国際学術雑誌に投稿する予定である。私的所得移転のメカニズムに関する研究についても、国内の学会・セミナーで発表し、得られたフィードバックに基づいて大幅な改訂を行った。この成果については、間もなくJICA研究所のワーキングペーパー(査読あり)として公開される予定である。 なお、平成27年度に予定していた経済実験については、実験のデザイン及び調査地における実施可能性の検証を行うに留まった。これは、上述の研究(特に農薬使用の空間的相互依存関係に関する研究)が当初の想定以上の大幅な進捗を見せたためである。なお、この実験については平成28年度に実施することも十分に可能である。以上の点を総合的に考慮して、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成28年度では、前年度までに実施した研究を仕上げるとともに、新たな経済実験の実施とそれに関する論文執筆に取り組むことを目標とする。 論文執筆の段階まで至っている農薬使用の空間的外部性に関する研究については、国内外の学会・セミナー等で積極的に発表を行い、そのフィードバックに基づいて論文を改訂することで、国際学術雑誌への投稿を目指す。昨年度までにほぼ完成状態にあるリスクシェアリングにおける空間的・社会的ネットワーク効果の比較研究及び私的所得移転の動機に関する研究等については、早急に国際学術雑誌へ投稿し、採用へ至ることを目標とする。なお、これらの論文についても適宜学会・セミナー等にて発表し、改善点を見つけることに努める。また、これらの研究以外にも、既存データを用いた関連研究の実施可能性について積極的に検討する。 以上に加え、平成28年度は持続可能的農業実践を阻んでいる要因を分析するための経済実験の実施とそのデータ分析を行うことを目標とする。この経済実験については、リスク選好や時間割引率等の一般的な行動経済学的パラメータのみならず、心理学に基づいた個人特有の特性を捉えるための実験を実施することを予定している。また、農業の環境負荷や環境保全技術導入の指標となりうるデータ及び家計属性等の基礎的情報を収集するために家計調査も併せて実施する。このようなデータを組み合わせて分析することにより、持続可能的農業実践を阻む要因について、近年注目を集める行動経済学・心理学に基づいた最新の研究を実施することが可能になる。この研究についても、データの分析結果が揃い次第、論文を執筆して学会・セミナーで発表し、フィードバックを得ることを心がけたい。
|
Research Products
(5 results)