2015 Fiscal Year Annual Research Report
雑食者トゲマダラカゲロウ属の体色斑による隠蔽効果と渓流食物網における役割の解明
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14J10780
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田村 繁明 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 河川昆虫 / カゲロウ / 隠蔽色 / 可塑性 / 遺伝子解析 / 生活環 |
Outline of Annual Research Achievements |
【1】体色斑の隠蔽効果:研究室内で行ったカジカによるミツトゲマダラカゲロウに対する捕食選択実験において、明色処理水槽では暗色個体が明色個体に比べて6倍攻撃され、暗色処理水槽では明色個体が暗色個体に比べて6倍攻撃された。この結果から、ミツトゲマダラカゲロウ幼虫の体色斑のカジカに対する隠蔽効果が明らかになった。 【2】体色斑の可塑性:室内のフタマタマダラカゲロウ幼虫の飼育実験の結果、明度の変化が処理間で異なっており、変化の方向は背景の明暗に対応したものであった。この結果から、本種幼虫の2体色斑型(斑型、黒帯型)における背景色に応じた体色斑の可塑性が明らかとなった。 【3】体色斑型間の遺伝的分化:栃木県日光市を中心に採集したサンプルなどから、オオマダラカゲロウ、ヨシノマダラカゲロウ、フタマタマダラカゲロウ、ミツトゲマダラカゲロウ、未記載種の約150個体のミトコンドリア遺伝子CO1領域600~650bpの塩基配列を決定した。H26年度のデータと合わせた解析の結果、関東地方において、ヨシノマダラカゲロウとミツトゲマダラカゲロウでは配列が10%程度異なる2系統が存在し、両種とも系統特異的な体色斑型が存在した。日光市において、フタマタマダラカゲロウでは、斑型と黒帯型・黒茶型の間でハプロタイプの共有が認められず、それぞれの型内の同類交配が示唆された。これら3種において、体色斑型間の遺伝的分化が示唆された。 【4】幼虫出現期間:東京都小坂志川で採集されたサンプルの解析から、幼虫出現期間は、オオマダラカゲロウで10月~4月、ヨシノマダラカゲロウで4~7月、フタマタマダラカゲロウで3~6月、ミツトゲマダラカゲロウは1~6月、未記載種は6~8月であった。カジカの採餌の活動度は季節で変化すると考えられており、トゲマダラカゲロウ属は種間でカジカから受ける捕食圧が異なると推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね計画通り、野外実験(体色斑の隠蔽効果の検証)、室内実験(体色斑の隠蔽効果の検証、体色斑の可塑性の検証)、サンプルの解析(体色斑型間の遺伝的分化の検証、生活環の解明)を行った。そのなかで、トゲマダラカゲロウ属幼虫の一部の種について、体色斑が魚類に対して隠蔽色として機能すること、幼虫が背景の色特性に応じた体色斑の可塑性を有していることを明らかにするなど、研究を着実に進展させることができた。以上から、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
一部の未終了の解析(個体群間の遺伝子流動)や実験(餌動物に対する隠蔽効果)を行うとともに、研究に必要な補足的な調査(魚類捕食者の食性)、実験(体色斑の隠蔽効果、体色斑の隠蔽効果)を行い、各研究結果を総合した分析を行う。
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