2014 Fiscal Year Annual Research Report
言語意識史から見た言語変化-17世紀から19世紀のドイツ語の文法形式を例として
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14J10892
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
佐藤 恵 学習院大学, 文学部, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 言語意識 / 言語変化 / 学校教育 / 規範 / 書きことば / 話しことば |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者が作成した「散文コーパス1520-1870」に基づいて前置詞wegenの格支配(属格を取るか与格を取るか)を分析したところ、18世紀の経過の中で一時は属格と拮抗していた与格が1800年を境に激減し、属格が圧倒するということがわかった。このような劇的な変化の原因としては、「属格が正しく与格は誤り」(1781)とする文法家アーデルングによる規範が、19世紀に入って学校教育を通じて書きことばのなかに普及していったことが想定される。 では、19世紀の話しことばにおいてはどのような状況であったのであろうか。この時代の話しことばの実態を再構成する資料として研究代表者は、耳が不自由になったベートーベンが用いた筆談帳(1818‐1827年)を利用するという着想を得た。ここには、19世紀初頭の「会話」が記録されている。ベートーベンの筆談帳、手紙、理論書を言語資料として前置詞wegenの格支配を調査したところ、ベートーベンは理論書では「書きことば的な属格」のみを、一方筆談帳での「会話」においてはほぼ「話しことば的な与格」のみを使用していることがわかった。この筆談帳をさらに詳細に分析してみると、ベートーベンの甥に興味深い言語使用が見られた。伯父ヨハン(ベートーベンの弟)との「会話」ではこの甥は「話しことば的な与格」を優先しているものの、もう一人の伯父ベートーベンに対して甥は、ほぼ毎回「書きことば的な属格」を使用しているのである。甥とベートーベンは良好な関係になかったという史実に照らし合わせると、属格を優先させるこの甥の言語使用は、甥のベートーベンに対する心理的距離、疎遠さを反映していた可能性がある。 なお、この研究成果は、ドイツの言語学専門誌 "Muttersprache"(2015年第1号)に論文として掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2014年度に解明することができた研究成果は、ドイツにおいて最も伝統ある言語学専門誌のひとつであるMuttersprache誌(1890年創刊)に、34ページにわたる学術論文として掲載され、2015年3月に公刊された。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者が作成した「散文コーパス1520-1870」(書籍140冊)では宗教書、哲学書、歴史書、法学書、新聞など、さまざまなジャンルのテクストを調査資料として計量的分析を行った。今後は、ジャンルによる相違という要因を排除する目的で、テクストジャンルを新聞に限定して通時的な分析を行う。 また、2015年9月~12月までStephan Elspass教授(ザルツブルク大学)を訪れ、本研究について指導を仰ぐ予定である。面談に際しては特に19世紀前半の言語状況について確認し、日本で入手が困難な原典資料については、ザルツブルク大学図書館で調査を行い、資料を入手する。
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Research Products
(10 results)