2014 Fiscal Year Annual Research Report
グリオブラストーマ幹細胞におけるゲノムのハイドロキシメチル化の機能解析
Project/Area Number |
14J10908
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
髙井 弘基 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 膠芽腫(グリオブラストーマ) / glioblastoma / エピジェネティクス / epigenetics / ハイドロキシメチルシトシン / 5-hydroxymethylcytosine |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、ハイドロキシメチルシトシン(5-hydroxymethylcytosine, 5hmC)が膠芽腫の造腫瘍性を維持する詳細な分子機構を明らかにした。 特別研究員らは、膠芽腫(グリオブラストーマ, glioblastoma)の無血清培養株のゲノムに5hmCが大量に存在していることを発見した。5hmCが造腫瘍性と関連の深い因子群の遺伝子座に多く存在することから、5hmCによる転写制御機構の解析を行った。まず、5hmCに対して結合するタンパク質を精製し、質量分析によって網羅的に同定した結果、新規タンパク質chromatin target of PRMT1 (CHTOP) が5hmCに特異的に結合することを見出した。さらに、CHTOPの複合体を質量分析によって解析した結果、CHTOPがmethylosomeと呼ばれるアルギニンメチル化タンパク質複合体と結合していることを見出した。続く生化学的アッセイによる解析の結果、5hmCがmethylosomeを介したヒストン修飾の制御により、転写を活性化していることが明らかとなった。 この成果は2014年10月、Cell Reports誌に掲載された (Takai et al. doi: 10.1016/j.celrep.2014.08.071)。本成果について、同誌による特別研究員のインタビュー記事が掲載され、日経産業新聞などの国内メディアや、Cancer Discovery誌などの国際誌においても取り上げられるなど、国内外から高い評価を受けた。また、2015年1月に米国コロラド州において開催されたKeystone Symposia: Epigenetics and Cancerでは、Keystone Symposia Future of Science Fund Scholarshipを受賞している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
特別研究員は、5hmCの新規結合タンパク質CHTOPを同定している。当初の研究計画においては、このCHTOPの機能解析を2年間に分けて行う予定であった。しかしながら、既にCHTOPがmethylosomeと呼ばれるアルギニンメチル化複合体と結合し、5hmCの存在する遺伝子座にmethylosomeを誘導することで、周辺のヒストンH4をメチル化し、EGFRなどの造腫瘍性関連因子の転写を活性化していることを見出している。これにより、5hmCによる膠芽腫の造腫瘍性維持機構が明らかとなった (Takai et al., Cell Reports, 2014)。 また、CHTOPによるクロマチンの高次構造制御に関しても、期待以上の進展があった。TET1あるいはCHTOPをノックダウンすると、膠芽腫細胞のゲノムが凝集することから、これらの因子がクロマチンの高次構造を開いた状態に維持していることが示唆された。また、膠芽腫がん幹細胞をフローサイトメトリーにより単離し、そのクロマチンを解析した結果、膠芽腫がん幹細胞のクロマチンが、TET1, 5hmC, CHTOPに依存的に開いた状態に維持されていることも見出された。 さらに、2年目に行う予定であった、5hmC産生酵素であるTET1阻害剤の大規模スクリーニングと抗腫瘍効果の検討についても、目覚ましい進展があった。まず、TET1の活性評価系をin vitroで構築した。この検出系は特別研究員らが立脚したものである。次に、化合物ライブラリ約15万化合物よりTET1に対する阻害効果を持つ化合物をスクリーニングし、有望な候補化合物を4つ取得した。それぞれTET1に対するIC50が数~数十nMであり、膠芽腫細胞に与えた場合、生育抑制効果が認められた。現在、これらの化合物の誘導体化を進め、膠芽腫に対する新たな標的薬を創製中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
TET1, 5hmC, CHTOPによるクロマチンの高次構造制御に関して、今後もその分子メカニズムを解析する。既にin vitroのクロマチン再構成系を利用し、CHTOPが5hmCの存在するDNA上において、リンカーヒストンH1と競合することでクロマチンを開くことを見出している。また、膠芽腫検体より、CD133, CD15などのがん幹細胞マーカーを指標としたフローサイトメトリーによって膠芽腫がん幹細胞を分離し、そのクロマチン構造を解析した結果、膠芽腫がん幹細胞のクロマチンが、TET1, 5hmC, CHTOP依存的に開いた状態に維持されていることが判明した。このことから、今後は、がん幹細胞のクロマチンの状態をFAIRE-seq, Hi-Cなどのディープシーケンサーを用いたクロマチン構造の網羅的解析法によって明らかとする。以上の解析結果と、これまでの研究成果を合わせて、TET1を標的とした膠芽腫の新規治療法を提案する。 膠芽腫に対する分子標的薬の創製に関しては、既に得られている4つの候補化合物の誘導体化をすすめ、膜透過性、肝ミクロソーム代謝安定性などの基礎評価を進める。同時に、TET1に対する特異性の確保や、膠芽腫細胞に与えた場合の生育抑制効果などについて検討する。得られた誘導体について、マウスを用いた薬力動態試験を行い、膠芽腫の動物移植モデルを利用したin vivo薬効評価を行う。
|
Remarks |
そのほかに、本研究に関する特別研究員(高井弘基)へのインタビュー記事が掲載されています(http://news.cell.com/cellreports/cell-reports/dna-methylation-and-glioblastoma-an-interview-with-hiroki-takai)。
|
Research Products
(10 results)