2015 Fiscal Year Annual Research Report
後期ドゥルーズ哲学と現象学の関係の解明をとおした感覚の哲学の研究
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14J11048
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
小倉 拓也 明治大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ドゥルーズ / 現象学 / メルロ=ポンティ / シュトラウス / マルディネ / 感覚 / カオス / モニュメント |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、研究実施計画にあるとおり、後期ドゥルーズの感覚の哲学を、それに影響を与えた現象学との理論的交渉関係の観点から明らかにすべく、ドゥルーズ、メルロ=ポンティ、シュトラウス、マルディネらの文献の基礎研究を積みながら、下記のとおりの研究実績が得られた。 6月25日にパリ第10大学で開催されたシンポジウム「パサージュ・フィロソフィック」にて、ドゥルーズがマルディネの現象学から援用し自身の感覚論の枢軸として展開した「モニュメント」の概念について発表した。ドゥルーズとマルディネの関係は、フランスにおいても新しいテーマだったようで、現地の研究者たちに歓迎され、有益な議論を交わすことができた。 9月11日に立教大学池袋キャンパスで開催された日仏哲学会の公募型ワークショップ「ドゥルーズ哲学と先行者たち」で、オーガナイザーと提題者を努めた。これはドゥルーズ哲学の知られざる先行者である三人の哲学者シモンドン、リュイエル、マルディネに焦点を当てて、その理論的交渉の内実を、ドゥルーズのカオス概念と、現象学との対決という観点から議論するもので、報告者はマルディネのパートで提題した。他の提題と合わせて、従来のドゥルーズ研究では注目されていなかった思想的布置を浮かび上がらせ、その哲学的・思想的な意義を明確化することができた。 9月26日に駿河台大学で開催された日本メルロ=ポンティ・サークルでは、メルロ=ポンティにおけるメラニー・クラインの理論的援用を批判的に考察する発表を行った。クラインの精神分析理論はメルロ=ポンティとドゥルーズを批判的に架橋するものであり、これによって、ドゥルーズと現象学の理論的交渉関係の解明をさらに推し進めることが可能となった。 以上の実績は部分的に『ドゥルーズ』(河出書房新社)の論考に反映されている。また、当初予定していた渡仏の計画は、情勢の悪化が重なり一部変更した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の進捗はおおむね順調に進展していると言える。 研究発表に関しては、計画にあったものをすべて遂行することができた。とりわけ、6月のパリ第10大学での発表は、ドゥルーズとマルディネの理論的関係が、フランスにおいても新奇なテーマだったようで、本研究の世界的な先進性を確認できたとともに、現地の研究者と水準の高いを議論を交わすことができた。また、9月の日仏哲学会の公募型ワークショップは、公募の主体として現在の研究状況における必要課題を的確に捉えるとともに、オーガナイザー兼提題者としてワークショップを成功させることができた。そこで議論され展開されたドゥルーズ、シモンドン、リュイエル、マルディネという思想的布置の意義は、本研究はもちろんのこと、広く本邦のフランス哲学・思想研究に与するものだと言えるだろう。 しかしながら、当初の計画にあった渡仏の予定が一部、多数の死傷者を出した情勢の悪化のタイミングに重なり、変更を余儀なくされたのは、マイナス要因と言えるかもしれない。 とはいえ、進行中の研究が評価されて依頼を受けたと言える、『ドゥルーズ 没後20年新たなる転回』(河出書房新社、2015年)でのいくつかの論考の依頼執筆や、小林徹『経験と出来事 メルロ=ポンティとドゥルーズにおける身体の哲学』(水声者、2014年)の大規模な合評会での依頼登壇と、そこで得られた成果は、プラスの要因だと言えるだろう。 前者は、研究者コミュニティを超えて広く哲学・思想の一般の読者の目に触れており、後者の合評会での登壇は、書評との関係から持論を展開し、著者や参加者との議論から、本研究の妥当性と有効性を確認することができた。 以上のように、平成27年度は、予期せぬ計画の一部変更がありながらも、それをカバーする成果が得られたという点で、現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展していると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、三ヵ年計画のうち二年を消化し、その進捗は、初年度の平成26年度は計画以上に進展し、二年目にあたる平成27年度はおおむね順調に進展している。最終年度にあたる平成28年度は、本研究の完成の年であり、これまでに得られた研究成果を深化させ、体系化する研究推進方策をとる。 まず、これまでの研究成果を深化、展開しながら、国際的な場でその意義を問う。 すでに、平成28年6月にドゥルーズ研究の国際学会International Deleuze Studies in Asiaの第4回大会での発表が決まっており、ここで本研究のこれまでの成果の延長線上にドゥルーズ哲学の研究を深化させた発表を行う。そこで得られた新たな知見を取り込み、研究をさらにブラッシュアップする予定である。 さらに、平成29年3月には香港中文大学で開催されるシンポジウム「Phenomenologies of Elsewhere」で、本研究が取り組んできた現象学者エルヴィン・シュトラウスについての発表を行う予定である。シュトラウスの現象学を体系的に論じることは、国際的にも大きな意義があることだと考えられ、シンポジウムでの反応、評価、新たな知見を取り込んで、研究をさらに洗練させる予定である。 そして、平成28年度は、これまでの研究の成果を体系化し、集大成として一冊の書籍と刊行することを目指している。ドゥルーズと現象学というテーマのもと、シュトラウスやマルディネといういまだ本場でも研究が十分に進んでいない重要な現象学者とのその理論的関係が体系化され、その成果が刊行されれば、本邦はもちろん国際的にも、大きな意義を持つと予想される。
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Research Products
(10 results)