2014 Fiscal Year Annual Research Report
量子多体系基底状態の複雑性の解析---量子情報論的視点---
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14J11111
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桑原 知剛 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 量子エンタングルメント / 基底状態 / 記述複雑性 / 量子フィッシャー情報量 / トポロジカル秩序 / スペクトル解析 / Locality / エネルギーギャップ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、最も一般的なハミルトニアンのクラスであるk-localと呼ばれるクラスでギャップを持つ基底状態を調査する。ここで、k-localハミルトニアンとは相互作用のカップリングが高々k体であるようなハミルトニアンを指す(k=O(1))。k-localなハミルトニアンを調査する意義としては以下の3点が挙げられる:(1a) 先行研究において一般的なk-local系に対してはほとんど何も分かっていない。(1b) k-local系のハミルトニアンは計算論で複雑性を研究する際に本質的な役割を果たす。(1c) k-local系の研究を通して、ギャップを持つ基底状態の局所的性質に対して新しい視点を得られることが期待される。ここで我々が直面する困難としては、これまでと定性的に異なるハミルトニアンのクラスを扱っているために従来の手法や考え方が適用できないということにある。
本研究の最大の目的の一つとして、外部擾乱の後に量子状態を修復するために必要な操作という観点から量子エンタングルメントを特徴づけるということが挙げられていたが、これを「量子状態の局所可逆性」として数学的に定式化し、さらに量子多体系の基底状態で一般的に成り立つ条件を求めた。具体的には局所可逆性に関して、我々は以下の結果を数学的に導出した。(2a) ギャップを持つ基底状態は局所可逆性を満たす。(2b) 局所可逆性はマクロな量子性の一つの指標である量子フィッシャー情報量に強い制限を与える。(2c) トポロジカルオーダーを持つ状態は局所可逆性を満たさないことをKitaevモデルの基底状態において示した。これまでのところ、状態に存在するいかなる大域的な量子性も局所可逆性によって検出されることを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最大の目的としてエンタングルメントエントロピーの面積則(Area Law)の証明があるが、そのための重要な鍵として量子状態の可逆性をを挙げていた。最初の一年で可逆性に関する完全な解析を行い、2年目でそれを用いて面積則を証明するという計画を立てていた。従って、現段階で可逆性に関して完全な解析が行えたことは本研究計画が順調に推移していることの証であると見ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究ではエンタングルメントエントロピーの面積則(Area law)の解決に向けてさらなる調査を行う。初年度の研究でArea lawに関する世界的な研究者であるシンガポール国立大学のItai Arad氏と共同研究を行うことができたため (T. Kuwahara, I. Arad, L. Amico and V. Vedral, Arxiv: 1502.05330)、今後の研究プランに関しては見通しが良いと言える。今後は、いかにして初年度に提案した可逆性の性質を基底状態の記述複雑性に具体的につなげるかであるが、これに関してもテンソルネットワーク状態と呼ばれる状態クラスの内部次元を調べることにより、最低限のつながりは理解できると期待している。
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Research Products
(7 results)