2014 Fiscal Year Annual Research Report
細胞との情報授受を行う機能性架橋点を持つ3次元ポリマーネットワーク
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14J11133
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小田 悠加 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ハイドロゲル / 間葉系幹細胞 / 細胞周辺環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
3次元ネットワークの架橋点形成部位および培養液に存在する糖分子の間の結合定数を測定した。低分子同士の結合とは異なる高分子効果による挙動を評価することで架橋点部位の結合定数を基準として考えることで異なる糖濃度を有する細胞培養用培地においても架橋点形成を可能とするポリマー設計が証明された。 3次元ネットワークの貯蔵弾性率を架橋点密度により制御した。また3次元ネットワーク形成に関与していない高分子を混和することで貯蔵弾性率を保ったまま浸透圧を変化させた。ネットワーク内のタンパク質の拡散定数を測定することでタンパク質といった化学的なシグナルに影響を与えることなく、細胞周辺環境の物理的な環境を制御することができたことが確認された。 マウス間葉系幹細胞をハイドロゲルに内包したところ、貯蔵弾性率を1.0 kPa以上とすることで内包細胞の増殖が抑制され、24時間で95%以上の細胞の細胞周期が間期に収束した。膨潤により貯蔵弾性率を0.6kPa程度まで低下させると細胞の増殖を再開することが可能であった。このように内包細胞を間期に収束させ、任意のタイミングで増殖を再開させることができることを利用して分化誘導シグナルの導入を試みた。細胞周期を制御せずシグナルを導入したものに対し、細胞周期を制御してシグナルを導入したものは3日後の分化マーカーの発現量が1.7倍に増加した。化学的や試薬を使用したり細胞を飢餓状態にする事なく高効率に分化誘導シグナルを導入することが可能であった。間葉系幹細胞に加え、繊維芽細胞の内包することで細胞種によって増殖が認められる貯蔵弾性率の範囲が異なることがわかった。これは細胞周辺環境の物理特性が細胞に与える影響を理解する上で重要な結果となる。また、貯蔵弾性率一定のまま浸透圧を変化させることによっても細胞の増殖率が変化するという現象を見いだしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞との化学的な相互作用のない3次元ネットワークを構築したことを確認する実験手法、および化学的な相互作用のない3次元ネットワークに適した物性評価の系を確立することができた。三次元ネットワークの構築に関してはその架橋点形成を結合定数として評価することで同様のボロン酸―ジオールの反応を用いた異なる分子構造を有する高分子に対しても一義的な評価が可能になった。現在、粒子表面にジオールを配置しボロン酸を含む高分子を利用した3次元ネットワークの構築に取り組んでおり、その分子設計においても今回得られた知見は有用である。また、3次元ネットワークの物理的特性として貯蔵弾性率に加えて浸透圧係数を測定する方法を確立した。このことによりフリーポリマーの導入により二つの物性を分けて議論することが可能となった。細胞を化学反応の集合体としてとらえた場合、細胞に作用する圧力が細胞の機能発現に影響を与えることは想像に難くない。この3次元ネットワークの構築により微細な圧力変化が細胞に与える影響を議論することが可能となった。 これらの物理的な測定に加え、細胞の機能評価方法を確立した。細胞内の遺伝子発現を解析するためのRT-PCR法、細胞膜表面に存在する膜タンパク質をフローサイトメーターにより解析する方法が確立されている。また、現在細胞内のNADPHの量を定量することを試みている。このような測定により、細胞の機能発現を定量的に評価することが可能となる。ネットワークの物理的な測定と合わせることにより、細胞周辺環境の情報、また細胞の情報の両方を数値としてとらえることが可能となった。 最後に架橋点として機能性粒子を導入する方法であるが、現在乳化重合法による粒子の作成、および三次元ネットワークを構築可能なポリマーの合成を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として大きく二点挙げられる。 一つは現在までに確立した細胞周辺環境、及び細胞機能の定量評価方法を用いて細胞に影響を与える周辺環境のパラメーターを明らかにすることである。現在までに細胞の遺伝子発現、タンパク質の発現から増殖といった初期から後期までの応答を評価することが可能となった。さらにNADPHの量を評価することによりこれらの反応系のつながりを明らかにすることができる。これらの反応の関連性および時間変化を定量することにより細胞内で起こっている化学反応についての理解が深まると考えられる。 二つ目はより詳細な制御が可能な細胞周辺環境の構築である。現在現在乳化重合法による粒子の作成、および三次元ネットワークを構築可能なポリマーの合成を行っている。安定的に3次元ネットワークを構築できるようにした後に所属する研究室で既に方法が確立している粒子への機能付与を行うことで、細胞へのシグナルを更に高度に制御した3次元ネットワークを構築することができる。 これら二つの項目を達成することにより、細胞周辺環境が細胞に与える影響を化学反応系として理解することが可能となる。これはより的確で能動的な細胞機能制御に繋がる。
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Research Products
(8 results)