2015 Fiscal Year Annual Research Report
地域森林管理における都道府県の役割と公益的機能:山梨県を事例とする歴史的実証分析
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14J11176
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山岸 健一 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 林政史 / 明治前期 / シュタイン / ドイツ / 憲政資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
地域住民や市民などを含む多様な主体の協働によって行われる地域森林管理が注目される中で、地域森林管理の枠組みにおける行政の役割を再検討することが必要である。本研究では、少なくとも近代以降「公益的機能」の発揮等で森林管理に一定の役割をはたしてきた都道府県に注目し、とくに国家との対比のなかで都道府県が行政主体として果たしてきた役割を、山梨県を事例にして歴史的に再評価することを目的としている。 平成27年度は、前年に引き続き日本近代林政の基礎過程と位置づけられる明治初年から30年代前半までの時期を対象として、史資料の調査・分析作業を行った。具体的には、1)シュタイン『行政学』の原著(Lorenz von Stein (1876) Handbuch der Verwaltungslehre)から「森林制度」の項を翻訳したうえで、とくに森林制度史について述べられた部分について分析を行った。これは日本が明治前期に継受した西欧とくにドイツの林政の歴史を法史・行政史の視点から描くものであり、同様の研究は日本では少ない。本研究を通して、明治期の日本林政への理解を深めるための手がかりを得ることができた。2)明治前期の林政に直接に関係する史料として、憲政資料を中心とする明治政府要人の関係文書の収集を行った。対象としたのは『杉浦譲全集』と憲政資料「杉浦譲関係文書」、伊藤博文『秘書類纂』であり、全文の閲覧と関係個所の複写、整理を行った。地租改正に伴う山林原野官民有区分(明治9-14年)時の県の施策に影響を与えた内務省による林政(明治7-14年)と、御料林創設(明治22年)にかかわる明治20年前後の官林の再編論議および皇室財産設定に関する史料を発見した。また、「井上馨関係文書」や『松方家文書』、「品川弥二郎関係文書」の目録から、同じくこの時期の林政に関係する史料の存在を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書記載の計画では、明治初年から30年代前半までの時期を対象とした史資料の調査・分析作業を終了し、山梨県下御料林(明治22~44年)および県有林(明治44年~現在)を対象とする調査と同時期の国家林政の展開過程のまとめに取りかかる予定であった。しかし、前者が終了せず、後者に取りかかることがほぼできなかった。 この理由として、1つは分析対象に選んだシュタイン『行政学』が従来の翻訳(渡辺廉吉訳、1889年出版)では不十分だと判明し、重要な文献であることを踏まえて原著から再度翻訳を行って分析すべきと判断したことがある。もう1つは、先行研究に依拠して記述することを予定していた明治初年から30年代前半までの国家林政に関して、新たな史資料が多く見つかり、その閲覧・整理に時間を割かざるを得なくなっていることがある。 これらの史資料はいずれもこれまでの林政史研究ではほとんど用いられていなかったものであり、明治期の林政史研究にとって重要なものと考えられる。しかし、これらの史資料の内容を踏まえて先行研究を再検討する必要が生じたために、先行研究に依拠して国家林政の展開を整理するという当初の計画を見直す必要が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究実績を踏まえ、今後は、1)シュタイン『行政学』の分析を学術誌への投稿論文という形で発表すること、2)明治初年から30年代前半までの史資料の閲覧・整理とその成果の学会報告および学術誌への投稿という形での発表、の2点を優先させたい。それが終了し次第、3)山梨県下御料林(明治22~44年)および県有林(明治44年~現在)を対象とする調査と、4)同時期の国家林政の展開過程のとりまとめに取りかかりたい。
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